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「熱量は、知らない人には撮れない」PALETTEコンセプトムービーを手がけたアウトクロップと語る舞台裏

2 時間前
読了時間: 11分



2026年春、MIRAI LAB PALETTE(以下、PALETTE)のコンセプトムービーが公開されました。施設内のモニターやイベントで目にした方も多いのではないでしょうか。


会員へのインタビューを軸に、ファウンダーの西野修一朗、コミュニティマネージャーの鎌北雛乃の言葉で構成された本作を手がけたのは、秋田で映像制作と場の運営を行う株式会社アウトクロップです。代表の栗原エミルさん、監督の松本トラヴィスさんと鎌北に、ムービーに込めた思いを聞きました。







秋田でのミートアップから始まった縁

──まず、今回のコンセプトムービーで、お二人がどのような役割を担われたのか教えてください。


栗原さん 株式会社アウトクロップの代表を務めています。松本とは共同で創業した関係で、普段は私がプロデューサー、松本がディレクターという役割分担です。今回のPALETTEのムービーでも同じく、松本が監督として入っています。


──アウトクロップとPALETTEの最初の接点は、どのようなものだったのでしょうか。


鎌北 2022年に、秋田をテーマにしたミートアップをPALETTEで開催したのが始まりです。住友商事の社員に秋田出身の人がいて、「秋田の魅力を東京の人やPALETTEメンバーに知ってほしい」と相談を受けたんですね。当時はコロナ禍で現地(PALETTE)に集まれなかったので、オンラインでの開催になりました。そのとき、その社員が「秋田の面白い仲間を連れてきます」と言って登壇してくれたのがアウトクロップだったんです。秋田でミニシアターを運営している話などを聞いて、強く印象に残りました。ただ、オンラインだったので直接お会いすることはできないままでした。


栗原さん その後、僕たちが福島県浪江町で撮影をしていたときに鎌北さんに連絡をしたら、偶然その日、鎌北さんも浪江にいらっしゃったんです。



2022年のミートアップでの写真
2022年のミートアップでの写真



鎌北 「ちょっと待っていてください」とお伝えして、PALETTEのファウンダーであり、浪江のプロジェクトの責任者でもある西野を紹介しました。2023年頃のことです。そこから一気に距離が縮まりましたね。


──映像の依頼に至るまでには、どのような関わりがあったのですか。


鎌北 アウトクロップが秋田市内に新しい拠点を作るとき、人の交流をテーマにした場所にしたいということで、相談に乗りました。オープニングイベントにも参加させてもらっています。


松本さん 僕たちも秋田で拠点を運営しているので、場の理念をどう言語化し、どう実装するかという点で、PALETTEをずっと参考にさせていただいていました。訪れるたびに、理念がきちんと日々の運営に落とし込まれていて、そこに人が集まっている様子を目の当たりにします。その難易度の高さを知っているだけに、特別な関心を持って見ていた場所でした。



現場を知らない人に、熱量は撮れない



──数ある制作会社の中から、アウトクロップへの依頼を決めた経緯を教えてください。


鎌北 もともと、PALETTEの熱量をどうメンバーに伝えるかという課題を持っていました。この熱量は資料では伝えられないと感じていて、映像が効果的なのではないかと考えたんです。それで、複数の制作会社に提案と見積もりをお願いしました。ただ、私の中で重視していたのは、価格やクオリティ以前に、PALETTEという場を理解した上で作ってくれるかどうかでした。現場を知らないまま作れば、きれいなだけの紹介動画になってしまいます。PALETTEにリスペクトを持って、一緒に発信したい、一緒に作品を作りたいと思ってくれる相手にお願いしたいと考えていました。


──提案のお話を受けたとき、お二人はどう思われましたか。


松本さん 率直に、とても嬉しく思いました。ただ同時に、僕たちの拠点は秋田なので、毎日PALETTEに通っているわけではありません。PALETTEの思いや熱量を伝えるには、まず自分たちが熱量のあるメンバーにならなければ伝えきれないと感じました。そこで提案をまとめる前に、鎌北さんに熱量の高いメンバーの方をピックアップしていただき、10人弱の方に1時間ずつオンラインで取材をさせていただいたんです。


鎌北 提案をお願いした会社の中で、発注が決まっていない段階で「メンバーに取材させてください」と申し出てくれたのは、アウトクロップだけでした。10人弱に1時間ずつというのは、相当まとまった時間です。そうして実際に上がってきた提案は、PALETTEの現場の熱量をきちんと汲み取ったもので、これなら任せられるという納得感がありました。それが決め手になりました。


松本さん 僕たちは「見えない物語を魅せる」というスローガンを掲げています。プロモーション映像の仕事でも、これまで何が発信されてきて、本質がどこにあるのかを踏まえ、表面的な部分を超えた表現ができないかを常に意識しています。今回で言えば、熱量の高いメンバーがどういう人で、何をしていて、どんな思いでこの場にいるのか。そこを知らないままでは誠実な組み立てができず、形だけのものになってしまいます。事前の取材は、やって当たり前のことだと考えていました。



セリフは、メンバーが実際に語った言葉だけ



──映像は、会員のインタビューを軸に構成されています。この形はどのように決まったのでしょうか。


松本さん 最初にお話を伺ったとき、会員が約9,000人いて、年間約1,000人のペースで増えている中で、メンバーの熱量に振れ幅が生まれているという課題を聞きました。だからこそ、理念をトップダウンで語るのではなく、すでに熱量を持って集まり、新しいつながりを生んでいる人たちの姿をそのまま見せることが正解だと考えたんです。全体の構成を相談したときも、鎌北さんは一貫して「場の主役はPALETTEメンバーである」とおっしゃっていました。それなら映像もメンバーを主役にするべきだと提案したんです。通常、この種の映像は場のオーナーの語りで構成することが多いのですが、そうではなく、ファウンダーの西野さんと鎌北さんには核心の部分だけを語っていただき、あとはメンバーの言葉でつなぐ構成にしました。


──出演するメンバーは、どのように選ばれたのですか。


松本さん 「この人こそ”PALETTE”だ、という方のリストを作っていただけますか」と鎌北さんにお願いしました。上がってきたリストには、一人ひとりがどんな活動をしていて、どんな熱量を持っていて、PALETTEを通じてその方の活動や事業がどう変わったのかまで書かれていました。コミュニティマネージャーとして、メンバーを個人のレベルで理解されているからこそできることだと思います。その情報を頼りに取材する方を選び、そこからさらに絞り込んで出演をお願いしました。


──絵コンテの段階で、すでにセリフが書き込まれていたと伺いました。


松本さん 通常の映像制作では、制作者の意図として「こういうコメントが欲しい」とセリフを設計します。今回は違いました。絵コンテに書いたセリフは、すべて事前取材でメンバーの方が実際に語った言葉です。制作者の作為で作った言葉がひとつもないので、現場の人たちの声だけで映像が成り立っています。PALETTEらしさというのは、僕たちが定義したものではなく、メンバー自身がすでに理解しているものだったと思います。


鎌北 最初の提案書に絵コンテが付いていて、それを見た時点で「PALETTEの質感だ」と感じました。私自身、PALETTEらしさをうまく言語化できていない部分がたくさんあったのに、ファウンダーが大切にしてきたことや、言葉にしきれていなかった細部まで汲み取って表現されていたんです。


──冒頭には、出演者の表情を静かに追うシーンがあります。あの場面には、どのような意図があったのでしょうか。


松本さん 撮影当日、会場に12の問いを書いたキャンバスを吊るしました。「自分が越えられていない垣根とは何か」「自分にとっての余白とは何か」「10年後に出会っていたい人は誰か」といった、PALETTEにちなんだ問いです。出演者の方には撮影の内容を事前に一切伝えず、空間に入って一つひとつのキャンバスの前を歩き、問いに向き合ってもらってから、インタビューの席に着いていただきました。話す前の、思考のウォーミングアップのような時間です。冒頭のシーンは、そのときの表情を撮ったものなんです。


鎌北 どんな内装で、何を聞かれるのかは、出演者に伝えないでほしい、と松本さんからオーダーがあったので、私も伝えませんでした。空間に入った瞬間のリアルな反応を撮るというアウトクロップのこだわりでしたね。「こう言ってください」「こういう反応をしてください」という指示は一切ありませんでした。


松本さん 熱量の高いメンバーの方々は、普段から深いところで物事を考えていらっしゃいます。それを言葉で語りすぎず、表情だけで表現できたらと考えました。目指したのは、挑戦的だけれど大人の余裕がある、という質感です。PALETTEのワークショップの内容や、そこにいる方々のたたずまいから受け取ったものを、映像のトーンに落とし込んでいきました。



ムービーは、PALETTEの入口になった



──完成した映像をご覧になって、いかがでしたか。


鎌北 絵コンテの時点ですでに期待を超えていましたが、映像の素人である私には、それが作品になったときの姿までは想像がついていませんでした。完成したものを見たときは、率直に感動しました。実はPALETTE側の都合で制作が約1年延びてしまい、トータルで2年ほどかかったプロジェクトなんです。最後はスケジュールの面でかなり無理をお願いしたにもかかわらず、最善の作品に仕上げてくれました。


──公開後の反響はいかがですか。


鎌北 ムービーの完成以来、PALETTEの新規登録フローを一部改定しました。登録時に、必ずコンセプトムービーを見ていただく流れにしたんです。PALETTEには毎月100人以上の新規登録があるので、新しいメンバー全員が最初にこの映像と出会うことになります。イベントの開場時間や施設内のモニターでも流していて、社内で公開したときも「動画を見た、すごくよかった」という連絡が個人チャットにたくさん届きました。わざわざ感想を伝えるのは労力の要ることなので、それだけ心を動かされた人が多かったのだと受け止めています。


松本さん 初めてPALETTEを訪れたとき、こんな場所があるのかと現場で感動したんです。理念を掲げることと、それを日々の運営に落とし込むことの間には、大きな距離があります。その難しいことが実際に行われていて、「ここにいたら何かが起きるかもしれない」というワクワクがありました。それをみんなに知ってほしいというのが、作り手としてのモチベーションです。最近足が遠のいている方が、もう一度PALETTEに来るきっかけになってくれたら、と思っています。


──お二人も秋田で「偶然の出会いと創造が出会う場所」を掲げて拠点を運営されています。場をつくる立場から見て、PALETTEはどのように映りますか。


栗原さん 僕たちにとってPALETTEは、まねをしたいと思うほどの存在です。職種の違う人たちが肩書ではなく交わっている光景には、初めて訪れたときに強烈な印象を受けました。その思想は、僕たちの場づくりの根底に最初からあったように思います。ただ、規模で言えば、僕たちのスペースはPALETTEの何百分の一の世界です。それでも会員は少しずつ増えていて、先日は国際教養大学を目指す高校生が「ロールモデルになる大人がいる場所で勉強したい」と連絡をくれました。自分たちが出せる価値を、僕たちなりのやり方で考え続けています。


松本さん こういう場の一番の魅力は、結局のところ人だと思うんです。僕たちがPALETTEに感じる魅力も、熱量の高いメンバーが集まっていることに尽きます。映像の中でも、そこが核心だと考えてセリフに残しました。自分たちの拠点ではまだ母数が少ないぶん、まず自分たちの熱量に共感してくれる人を集めるところから始めています。鎌北さんのような存在に、僕たち自身がなっていく必要があると感じています。


──今回のケースは、単なる受発注の関係にとどまらず、お二人はPALETTEの会員でもありますよね。今後、一緒にやってみたいことはありますか。


栗原さん base 01の部屋をクリエイターズルームにしていくお話を鎌北さんとしていて、僕たちがファーストペンギンとして立ち上げに関わらせていただくことになっています。いろいろなアーティストやクリエイターがPALETTEを拠点に、ものづくりや人とのつながりから新しいプロジェクトを生み出していく、クリエイティビティに特化したコミュニティ・拠点のイメージです。誰を誘い、そこで何を起こしていくかを、緩やかに考えながら少しずつ進めていきたいと思っています。


鎌北 PALETTEには、事業開発が得意な人、技術を持っている人、プロデュースする側の人と、本当にいろいろな人が集まります。新しいものの起点になるのは、発想力や想像力といったクリエイティブの力だと感じることが多いんです。これからの新しい事業や文化を、アウトクロップと一緒にPALETTEで作っていけることを楽しみにしています。


秋田のミートアップでの偶然の登壇から、浪江での再会、拠点づくりの相談を経て、二人はコンセプトムービーの制作へとたどり着きました。そしていまは、PALETTEのメンバーとして次の企画を温めています。毎月100人以上の新しいメンバーが最初に出会うあの映像には、この場に集う人たちの言葉だけが収められています。まだご覧になっていない方は、次にPALETTEを訪れた際、ぜひモニターの前で足を止めてみてください。



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