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文化は、都市の余白から生まれる――日欧の文化関係者がPALETTEに集った「Meet Up ECoC! 2026」


2026年7月15日、MIRAI LAB PALETTE(以下、PALETTE)にて、EU・ジャパンフェスト日本委員会主催、住友商事株式会社・PALETTE共催による「Meet Up ECoC! – Face to Face – 2026 in Tokyo」が開催されました。「アート×都市×経済――新たな共創の可能性に出会う一日」をテーマにした当日の様子と、同委員会事務局次長・古木治郎さんへのインタビューをあわせてレポートします。




文化と経済をつなぐ一日が、大手町から始まった


「欧州文化首都(European Capital of Culture、以下ECoC)」は、1985年からヨーロッパ各地で毎年開催されている国際文化事業です。欧州文化首都に選ばれた都市では、開催年に現代アートや音楽、建築など数百に及ぶ文化プロジェクトが展開され、日本を含む世界各国のアーティストが参画しています。本イベントは、2026年から2030年にかけて開催されるECoC 10都市の代表者と、日本で活躍する文化・芸術関係者が直接顔を合わせるマッチングイベントであり、午前中には両者が1対1で対話する15分単位のスピードピッチも行われました。




開会にあたり、EU・ジャパンフェスト日本委員会第34回実行委員長を務める兵頭誠之住友商事取締役会長が登壇しました。


兵頭実行委員長はまず、会場となったPALETTEが、2018年の自身の社長就任を機に「国籍や会社の垣根なく、新しいことをやりたいという意思を持つ人が集える場」として構想された経緯に触れ、世界人口80億人を超える時代に、この空間で日欧の人々が顔を合わせられることを「奇跡的な出会い」と表現しました。


兵頭 誠之EU・ジャパンフェスト日本委員会第34回実行委員長
兵頭 誠之EU・ジャパンフェスト日本委員会第34回実行委員長



また、ECoCが始まった1985年は自身が社会人になった年でもあると振り返り、以来30年以上にわたり日欧の絆を育んできた同委員会の歩みに敬意を示したうえで、分断が進むと言われる現代においても「人と人が出会い、文化というテーマを通してお互いの理解を深め、共に明日をつくっていく」という営みだけは変わらないし、変えてはいけないと強調。本イベントが日欧の新たな友情や挑戦、文化共創のスタートとなることへの期待を語りました。


EU・ジャパンフェスト日本委員会 事務局次長 古木治郎さん
EU・ジャパンフェスト日本委員会 事務局次長 古木治郎さん



続いて、事務局次長の古木治郎さんが委員会の活動を紹介しました。同委員会は1992年に設立され、30年以上にわたりECoCにおける日本関連プログラムを支援してきた国際NGOです。経団連をはじめとする日本の経済界の支援を受けており、メンバー企業には住友商事も加わっています。古木さんは「文化・芸術という極めて柔らかい力で、世界が直面する課題を解きほぐしたい」と活動の理念を語りました。



欧州文化首都の最前線に触れた2つのクロストーク



前半のクロストーク「欧州文化首都が挑むクリエイティブな未来創造」には、オウル2026(フィンランド)、トレンチーン2026(スロバキア)、ルブリン2029(ポーランド)の代表者が登壇しました。「Cultural Climate Change」を掲げて開幕祭に約25万人を集めたオウル、街に好奇心の「橋」を架けるトレンチーンの構想、危機の時代に記憶を保存するアーティストの役割を語ったルブリンと、文化を軸に都市と社会を変えていくECoCの最前線が共有されました。


2つ目のクロストーク「アートがもたらす社会の"破壊と創造"」では、ワタリウム美術館の和多利恵津子さん・和多利浩一さんが、東日本大震災後の石巻・牡鹿半島で「希望」をテーマに続けたアートフェスティバルや、東京五輪にあわせたプロジェクト「パビリオン・トウキョウ2021」など、街へ出ていくアートの実践を紹介。



ファシリテーターの米倉誠一郎さんは、マーケットにとらわれない若い作家たちの登場に日本のアートの可能性を見出しました。このほか当日は、リエパーヤ2027(ラトビア)やブドヴァイス2028(チェコ)をはじめとする将来の開催都市と、ネットワーク団体Culture Nextによるプレゼンテーションも行われました。



都市の余白から何が生まれるか――クロストーク「都市の"ソノ アイダ"」



本イベントのハイライトとなったのが、3つ目のクロストーク「都市の"ソノ アイダ"」です。登壇したのは、都市の隙間や余白でのアートプロジェクト「ソノ アイダ」を主宰するアーティストの藤元明さんと、建築家の永山祐子さん。ファシリテーターは、PALETTEコミュニティマネージャーの鎌北雛乃が務めました。




冒頭、鎌北はPALETTEについて、住友商事が創立100周年の節目である2019年に「垣根を越えた共創を生み出す場」として開設した会員制のオープンイノベーション拠点であり、スタートアップ、大企業、行政、研究者、アーティストなど多様な立場の人々が集い、会員登録者数は9,000名を超えると紹介しました。藤元さんもPALETTEのメンバーの一人です。開設当時からコミュニティマネージャーを務めてきた実感として、鎌北は「面白いことや新しいアイデアは、綿密な計画からではなく、思いがけない出会いや雑談、ちょっとした実験から生まれることが多い」と語ります。再開発によって都市が便利になっていく一方で、人が出会い、何かを試せる「余白」はどう残っていくのか。この問いがセッション全体を貫くテーマとなりました。


永山さんが紹介したのは「動く建築」という考え方です。デザインアーキテクトを務めた2021年開催のドバイ国際博覧会日本館では、万博建築が会期後に取り壊されることへの疑問から、プラモデルのように組み替えられる構法を採用し、資材を次の建築へ引き継ぐことを当初から提案していました。その資材は2025年の大阪・関西万博のウーマンズ パビリオンへ姿を変え、さらに2027年国際園芸博覧会の施設として3度目の活用が進んでいます。別のパビリオンのリユースは、出展企業の社長のSNS投稿を見た永山さんが直接売り込んで実現したといい、偶発的な接点が建築の循環を生んだエピソードも紹介されました。


一方の藤元さんは、30代後半で「発表する場所がない」という壁に突き当たった経験から、2015年にアーティストの有志と「ソノ アイダ」を立ち上げました。閉店前の花屋、建て替え前夜の雑居ビルのスナックなど、都市の中で用途が定まらない「その間」の空間を展示の場に変える活動は11年に及びます。有楽町では三菱地所の協力のもと、ビルの1階に約2年間アーティストの制作スタジオを開き、延べ約100名が参加。「アーティストが制作していると、宣伝をしなくても自然と人が集まってくる」と藤元さんは振り返ります。解体直前のビル全館を自由に使える直近の「ソノ アイダ#赤坂」では、報酬がなくても「一瞬でもいいから爪痕を残したい」と参加を熱望するアーティストが会期中も増え続けたといいます。


対話は、都市とアートの構造的な関係へと深まりました。藤元さんは、東京もニューヨークも地価の高騰とともに文化が育つ隙間を失ってきたと指摘しつつ、「お金がないから何もやらないのではなく、別のエンジンで前進できる」とアーティストの瞬発力を強調。永山さんは、完成まで6年から10年を要する建築と、生まれては消えるアートのアクションという時間軸の違いに触れ、「人間の生身の活動こそが、次の開発の大事な起点になるのではないか」と述べました。


会場からの「アートが都市に残るために一番必要なことは何か」という質問に、藤元さんは「場所です」と即答しました。永山さんは「共感」を挙げ、活動に共感した異分野の人々が集まり始めていることが継続の原動力になると語ります。


そしてセッションの終盤、鎌北が「PALETTEにアーティストやクリエイターのコミュニティと場をつくりたい」という構想を明かし、その場で2人に協力を呼びかけると、両氏は快諾。都市の余白をめぐる議論が、PALETTEを起点にした次の共創の約束へとつながる幕切れとなりました。



「文化とビジネスの本質は相通ずる」――兵頭実行委員長のメッセージ



イベント当日には、兵頭実行委員長への個別インタビューも行われました。日欧のマッチングの現場を目の当たりにした感想を問われた兵頭実行委員長は、「相当なエネルギーを感じた」と語ります。ヨーロッパから来日した各都市のプロジェクト関係者が日本の社会とアーティストの活動に強い関心を寄せ、集まった日本の芸術家たちもまた、ヨーロッパとのつながりを通してさらに世界へ出ていこうとしている。その双方向の熱に触れ、「非常に貴重なイベントに参加でき、感動しました」と述べました。


そのうえで兵頭実行委員長は、ECoCの本質をこう読み解きます。多様な国や地域からなる欧州は、それぞれが異なる社会的課題を抱えています。その課題に対して、芸術や文化を通してみんなで語り合い、解決に向けて努力を重ねていくことこそがECoCプロジェクトの本質であり、それは「私たちがビジネスの世界で日々取り組んでいる仕事の本質とも相通ずる」といいます。アーティストかビジネスパーソンかを問わず、日本の人々が活動を通じてヨーロッパ各地の社会とつながり、その地域の課題にどう関わっていけるのかを考えること。そして「参加することで、参加した人自身がより豊かになっていく。そのきっかけがここにあります」と、文化共創に関わる意義を語りました。


最後に実行委員長として、「第34回が、第35回、第36回へとつながっていく1年になればいい。皆さんと力を合わせて、2026年を豊かな1年にしていきたい」と締めくくりました。



「一緒にやろう」から始まった共催――事務局・古木さんに聞く



イベント終了後、事務局次長の古木治郎さんに、開催の舞台裏を聞きました。


まず伺ったのは、兵頭実行委員長の就任経緯です。同委員会の実行委員長は例年、経団連の副会長を務める企業トップの中から1年交代で選出され、前任者からバトンを受け継ぐ形で就任します。古木さんによれば、その根底には「純粋な経済ではなく文化のフィールドで、日欧の共創や若いクリエイティブな人材の成長という、目に見えない価値を理解しリーダーシップを発揮いただける方に牽引してほしい」という思いがあるといいます。


兵頭実行委員長との初対面は、就任前の事前説明の場でした。通常は30分程度で終わるところ、会長は1時間の予定をさらに30分延長し、質問を途切れさせなかったといいます。「肩書きとしてこなすのではなく、日欧の文化共創の全体像と、そこから生まれる価値をご自身で捉えようとされていた」と古木さんは振り返ります。就任スピーチでも、原稿を読むのではなく「文化は社会に心の豊かさをもたらす。人々に幸福や笑顔をもたらす活動だからこそ、一緒にやる必要がある」と自らの言葉で語る姿が印象的だったそうです。


PALETTEでの開催も、この就任が縁となりました。古木さん自身が個人的にPALETTEの会員であり、「面白い場だ」とかねて注目していたことから、「何かご一緒にできませんでしょうか」と兵頭実行委員長に相談して実現したといいます。「場所があったから使うのではなく、共に行動するパートナーとして新しい関係性をつくれたことが大きかった」と古木さんは強調します。実際、当日のクロストークも両者が企画を持ち寄って登壇者を迎えたものであり、「EU・ジャパンフェストの活動の新しいモデルが生まれた」と手応えを口にしました。


その手応えの背景には、活動の本質への共鳴があります。「私たちの活動は、人と人をつなぐコネクタであり、触媒のようなもの。人々を混ぜ合わせ、少し力を加えることで次のフェーズへ進める。それは商社の価値観と似ているのではないか」と古木さんは分析します。当日はPALETTE会員をはじめビジネスや行政の関係者も多く来場し、レセプションでは「何かできませんか」という前向きな会話が各所で生まれたといいます。


「Face to Face」という形式には、明確な問題意識があります。コロナ禍の2021年に立ち上げたアーティストのデータバンク「Meet Up ECoC!」を運営する中で、オンラインでは共有できない熱があると痛感し、2025年から欧州文化首都の実務責任者を日本へ招く対面型マッチングを開始しました。2年目の今回は、事前に双方の情報を共有したスピードピッチを初めて実施したほか、東京開催後には初の地方プログラムとして沖縄を巡り、日本の社会や文化を立体的に見てもらう試みも行われました。すでに帰国後の連絡を約束する声も生まれており、「マッチングは1年、2年、時に5年かかる長い旅の始まり。その旅をみんなで続けられるかが、これから試される」と古木さんは語ります。


最後に、PALETTEの会員へ向けたメッセージを聞きました。「EU・ジャパンフェストのユニークさは、マッチングの先に渡航支援、プロジェクト支援と続く仕組みがあること。聞いて楽しかったで終わらせず、自分ごととしてヨーロッパの仲間たちと出会い、未来に向けてクリエイティブな”旅”を始めたい方を、どんどん応援していきたい」と古木さんは締めくくりました。



PALETTEから始まる、次の共創へ




クロストークの終盤に生まれた「アーティストやクリエイターのコミュニティをPALETTEにつくる」という構想は、今回のイベントが一日限りの交流に終わらないことを予感させます。文化・芸術とビジネスを横断する接点を生み出した本イベントは、異分野・異業種をつなぐ場というPALETTEの役割を体現する機会となりました。ここで生まれた出会いが、日本とヨーロッパの新たな共創へと育っていくことが期待されます。


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