バラエティからデジタルとビジネスへーーテレ東・三宅優樹さんがPALETTEで見つけた道しるべ
- MIRAI LAB PALETTE 運営事務局

- 15 分前
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テレビ東京グループがAI専門のYouTubeチャンネル「テレ東AIアカデミー」を立ち上げたのは2025年のことです。
手がけるのは、株式会社テレビ東京コミュニケーションズ ビジネスデザイン部シニアマネージャーの三宅優樹さん。地上波のバラエティ番組を15年以上つくってきた三宅さんは、対談企画の収録拠点のひとつにMIRAI LAB PALETTE(以下、PALETTE)を選び、PALETTEもその取り組みに共鳴し、AI領域における新たな情報発信の挑戦をともに進めています。
開設から1年、チャンネルの輪郭を決めたのは、その現場に集まる人たちでした。
バラエティ制作から「デジタルとビジネス」の最前線へ
——バラエティ番組を長く手がけてこられた三宅さんが、AI専門チャンネルを立ち上げた経緯から教えてください。
2009年に新卒でテレビ東京に入社して、念願かなってADからずっとバラエティをやってきました。ところが2024年に辞令が出て、グループのデジタル戦略を担うテレビ東京コミュニケーションズに出向することになりました。当時の社長からは「これからはデジタルとビジネスを勉強してほしい」と言われました。
入社以来、バラエティ番組しか作ってこなかった自分には、転職と同じくらいの変化でした。
——そこからAIにたどり着いたきっかけは?
何をしていいかもわからない中で、当時の部長にIVS※に行って勉強してこいと言われました。数あるセッションの中で、いちばん多かったテーマがAIだったんです。ChatGPTをなんとなく知っている程度だった自分が、3日間AIのセッションだけを聞き続けました。
中でも印象に残ったのが、AIとアニメをテーマにしたピッチコンテストでした。公務員の方が土日に自分の考えたストーリーをAIで映像にして、1分ほどの作品をプレゼンするというピッチに衝撃を受けました。何年もかけて制作するアニメを個人が数か月でつくってしまうわけで、これは業界がクリティカルに変わると思いました。
加えて、数か月前までテレビ局のバラエティのど真ん中にいた自分は、「(テレビ東京の同僚は)誰も知らないだろうな」と気づきました。当時の業界には、議事録をAIで取っているチームすらなかったんです。
※年1回開催される国内最大規模のスタートアップ向けカンファレンスイベント
——社内で企画が通るまでには、どんな議論があったのですか。
書いた企画書が「テレビ東京=AI」でした。
テレ東らしさとは、他局がやっていないことをやるというDNAなんですよね。加えて、調べてみるとインフルエンサーの方の発信はあるのに、きちんとしたメディアが発信している場所がありませんでした。市場は拡大していくのに、意外とブルーオーシャンだと。初めて事業計画書を書いて、「自分がやりたいだけでなく、会社の財産にもできます」とプレゼンしたところ、ゴーサインが出ました。
反対を押し切って持ち込んだ、バラエティという武器
——チャンネルには専門家同士の対談、ニュースやツールの解説、AI×エンタメという3つの柱があります。この設計にはどんな狙いがありましたか。
最初はビジネスチャンネル一本で行こうと思っていたんです。YouTubeにはアルゴリズムのセオリーがあって、1万人が登録して1万再生されるのがいちばん美しいとされています。ターゲットを定めて伸ばすのが王道ですから、そのとおりに始めました。
——実際にやってみて、いかがでしたか。
面白くなかったんです(笑)。AIそのものには惹かれていたのですが、1か月くらいで飽きが来ました。AI時代の生き方や組織を詳しい方に語っていただくコンテンツは、他社の先行メディアにも似たものが溢れています。やりたかったことはできているつもりでも、再生数も登録者数も伸びていきませんでした。
——そこから、どう舵を切ったのでしょうか。
会議の場で「自分が15年以上やってきたバラエティの要素を入れて、AIを面白く伝えつつ、チャンネルの幅を広げたほうがいいのではないか」と提唱しました。ところが軒並み反対に遭いまして。ビジネスチャンネルにエンタメの軸が入ると、チャンネルの設計が壊れてしまうというわけです。「芸人さんの企画を見に来るのは面白いものが好きな人であって、AIの使い方には興味がない。逆もまた同じだよね」という意見でした。
それでも自分が立ち上げた手前もありましたので、一度これで勝負させてくださいとお願いしました。このままでは、やっているのかどうかもわからない存在になってしまいますから。エンタメのエッセンスを入れたところ、割といい数字が出て、登録者数も増えました。軸が2つあることは今も議論になりますが、それもそれでオリジナリティだよね、と。誰も歩んでこなかったつくり方ですが、結果が出たので認めてもらえています。
——芸人さんとAIを組み合わせた企画は、他のAI系メディアにはなかなか真似できないものだと感じます。
企画はチームでつくりますから、自分がこうしたいと言うだけでは属人性が増すだけです。そこで大きな軸を2つ立てました。1つは「AI対人間」です。当時はまだ、「AIなんて所詮」と言う人も多い時代でしたから。もう1つは「検証」です。最初に疑問を立てて、その答えが映像になっているというバラエティのつくり方で、AIと30分間放置したら何が生まれるのかという企画も、そのフォーマットを採用しています。
バラエティは作家や制作チーム、出演者同士の「阿吽の呼吸」で作れてしまう暗黙知の世界です。それをバラエティ制作ではないチームに落としこむために、「なぜAI対人間なのか」「なぜ検証なのか」というところまで言語化しました。テレビ局では何百通と集まる企画書から選ばれて進行しますし、さまざまな人が動く世界です。失敗しても企画を採用した編成が悪かった」と言えなくもないのですが、今は1分の1で自分の企画が動きます。「成功するのも失敗するのも自分次第」というプレッシャーは、初めて感じたものでした。
会議をキャンセルしてでも見にくるか
——2025年にPALETTEにご相談いただきました。当時はどんな場所を探していたのでしょうか。
当時はYouTube用のスタジオがあまりありませんでした。それまで撮っていたテレビ局のスタジオは、防音の設備もカメラも照明も整った場所です。YouTubeを撮るなら、真っ白な背景ではなく、画面を見た瞬間に「ここは見たことがない」と思える場所がいいと考えて、都内を探していました。
たまたま僕の同期がPALETTEの会員で、紹介してもらいました。実際に来てみたら、hubにあるチームラボさんの作品が目に留まりました。AIっぽくはないのですが幻想的で、YouTube映えもしそうでした。ぜひPALETTEでチャレンジさせていただきたいと鎌北さんにプレゼンしに来たのが最初です。
——PALETTE全体をご覧になった第一印象はいかがでしたか。
名だたる大企業や多種多様なメンバーがこの場所に集結して、まったく違う仕事をされている。「これはどういうことなんだろう」と思いました。鎌北さんに伺うと、「会員同士の交流があり、協業でビジネスを始めるきっかけになることもある」というお話でした。
同じようなコンセプトを掲げるワーキングスペースにも行ったことがありますが、実際には会員同士で話すことなんて無いじゃないですか。ここは会員の方同士が話していますし、ご縁日のようなイベントで交流を促してもいます。目先の利益を求めずに、そういった場を提供する商社のスケールに驚きました。
——テレビのスタジオとは違う場所で撮ることは、コンテンツの中身そのものに影響しましたか。
始めるときに、鎌北さんから「PALETTEで招待制の見学ができるようにしていいですか」とご提案をいただきました。現在も収録の機会にあわせて招待していて、興味のある方が来てくださいます。実は、この客入れが緊張感を生んでいます。
YouTubeの撮影は、出演される方からすると、テレビと比べて緊張感が落ちる面があります。僕らは企業の方やビジネスパーソンを演者にお呼びしていますから、そこにお客さんが入ってくださると、緊張の度合いがもう1つ上がります。演者さんもつまらないと思われたくありませんので、通り一辺倒の質疑応答では終わらず、議論が白熱していきます。ビジネスコンテンツは台本どおりが正義になりやすく、想定内に収まってしまう。でも面白いコンテンツは、予想だにしないところに転がっていくものなんですよね。カメラの後ろにいる自分が質問したり、お客さんを入れることで、予定調和を崩すといった工夫はいつも意識しています。
——住友商事の社員に向けた公開収録も実施いただきました。
安野貴博さんと令和ロマンのくるまさんの対談でした。ほぼ同年代のお二人が政治家と芸人という立場でどう話すのか興味がある、と鎌北さんがおっしゃったのは意外でした。住友商事さんの中でも抽選になるほどの人気だったと伺っています。
それで思い出したのですが、僕ら、住友商事の社員さんに向けてつくっているところがあるんですよ。この対談をPALETTEで収録しますと告知すると、人気の回とそうでもない回がはっきり出るんです。安野さんとくるまさんの回にはたくさんの方が来てくださいましたし、そうでない回は来てくださらない。これはすごくリアルな視聴者の反応じゃないかと思っていて。面白そうな内容であれば、会議をリスケしたりキャンセルしたりしてまで見に来てくださる事もあるわけですよね。「住友商事の社員さんの気持ちになって企画を考えよう」と、よく口にしていますね。
——数字や画面上のデータではなく、リアルなオーディエンスが目の前にいる状態ですね。
そうなんです。このチャンネルは誰が見ているんだっけ、誰のためにやっているんだっけ、という問いは、先ほどの2軸の話とも重なります。毎週上げていきますので、同じものだけでは飽きられますし、突拍子もないものだと離れていきます。ターゲットのハートをつかむには、1人に定めたほうがチームの共通理解になるんです。それが住友商事の社員さんでした。
チームも収録に立ち会っています。1時間の対談を座って見ていると、大学の授業と同じで、飽きた1時間だったのか面白かった1時間だったのかが表情でわかるじゃないですか。それはそのままコンテンツに出ます。住友商事の社員さんやPALETTEの会員さんをペルソナにできたのは、ここでやらせていただけたからかもしれません。
——バラエティ系のコンテンツにも、その考え方は及んでいますか。
及びましたね。YouTubeは全世代が見ていて、世代によってつくり方が変わります。うちは30代から50代の男性ビジネスパーソンがメインで、僕自身も40歳ですから、そこはブレません。10代には寄せない、かといって上すぎない、という意識があります。
——情報系で始まり、バラエティの要素が入ってチャンネルが動き、PALETTEでの収録を通じてペルソナが定まって、2つの軸が同じ人を向いて作れるようになったーー。この1年はそういう流れだったのですね。
まさにそのとおりです。1年やってわかったのは、テレビと大きく違って、YouTubeは作り手が楽しめているかどうかが決定的だということでした。熱のないものは、つくっていても自分で面白くないと思ってしまいます。自分が熱を持って届けたいものをつくることが大事だと思います。本当に、PALETTEで勉強させてもらったことです。
情報を届けるだけのメディアで終わらせない

——テレ東AIアカデミーを、今後どのような存在にしていくお考えでしょうか。
いろいろな方のお話を聞く中で、情報そのものの価値はあまりないのではないかと思うようになりました。AIに聞けばだいたいわかりますし、AI時代の生き方や組織の話もあちこちに転がっています。そこから1つ先に行くには、スキル化して視聴者の方に渡す形が要ります。直近では野田クリスタルさんの頭の中をChatGPTやClaudeで使われる「スキル」に落とし込む企画をやりました。情報を届けるだけでは、ベンチマークにしている先行メディアと同じところが上限になってしまいます。
まずは登録者数で日本一のAIメディアを目指します。始めた頃は、AIは怖いという声が世間一般にありました。それが多くの方に使われて身近になり、インターネットと同じくらいのインフラになっていくはずです。AIで困ったことがあったらテレ東AIアカデミー、と情報が集約されている場所でありたい。さらにその先では、映像メディアにとどまらず、事業として新しいサービスを届けたいと考えています。
——PALETTEとの連携で、今後さらに深めたいことはありますか。
PALETTEにはAIを活用されているスタートアップや企業の方がたくさんいらっしゃって、実際につながることもできました。ここでしか出会えない出会いというか、フィジカルな場は大事になってくると思います。ご縁日でお会いした方で、地方の高齢者の免許返納の問題をサポートするAIサービスを考えていらっしゃる方がいて、めちゃくちゃ面白いなと思いました。社会問題を解決しながらイノベーションを起こすサービスは、もっと知ってもらう機会があっていい。ぜひ取材もしてみたいところです。
アカデミーをやっていて思うのは、「日本発で世界を変えるイノベーティブな企業があまり多くないのではないか」ということなんです。大きなものでなくてもよくて、日本発で世界に勝負できるビジネスモデルをAIを絡めて考えていらっしゃる方たちを、僕らのコンテンツで応援できるとすごくいいなと。表に出てこない企業の中のドラマを中長期で密着できたら、見応えのあるものになるはずです。
住友商事さんとも、AIに絡んだ取組を一緒にやろうというお話が出ています。AIアカデミーの枠を超えて、新しいAIにまつわる事業で協業やジョイントベンチャーができたら、とても嬉しく思います。
僕らのコンテンツやメディアを、いい意味で利用していただきたいんです。何か面白い取り組みができそうな方がいらっしゃるなら、ぜひ一緒にやっていきたいと思っています。


