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移動の「その先」を探そう──JALとPALETTE会員による共創ワークショップが生んだもの



移動の価値とは何なのかーー日本航空株式会社(JAL)が2024年に立ち上げた「関係・つながり創造部」は、人が地域に何度も通いたくなる関係そのものを事業にしようとしています。


2026年6月2日、同部はMIRAI LAB PALETTE(以下、PALETTE)で共創ワークショップを開きました。集まったのは、メーカーの担当者もいれば、地方自治体の職員も、離島でドローンスクールを営む人もいるという多種多様な顔ぶれ。台風6号が接近するなか、日本各地から25名が足を運びました。


企画から当日まで共にしたソリューション営業本部 関係・つながり創造部 戦略グループの伊藤翔次郎さん、栗原涼太さん、PALETTEコミュニティマネージャーの鎌北雛乃に、「PALETTE流共創」の舞台裏を伺います。




ワークショップの概要




会場はPALETTEのイベントスペース、開始は夕刻の18時半。招待制で25名が参加しました。前半は、JALが事業構想と自社のアセット、そして現在抱えている課題を率直に共有するインプットセッションに充てられます。


後半で使われたのが、クリエイティブマトリクスと呼ばれる発想法です。縦軸に参加者自身のアセット、横軸にJALのアセットを並べた表をつくり、その交点に事業アイデアを書き込んでいきます。互いの強みを掛け合わせる形に絞ることで、JALへの要望ではなく共創の案が生まれるよう設計されています。書き出された案は、この日だけで25を超えました。




「飛行機の会社」だと思われている、その先へ


――関係・つながり創造部は、どのようなミッションを担っているのですか。


伊藤さん:2024年に設立された、比較的新しい部署です。当時の中期経営計画では、目指すべき姿は単なる公共交通機関ではなく、移動の先にある価値を捉える存在だという方向が示されました。その構想を動かす実行部隊が、この部署です。


軸にしているのは関係人口という考え方です。移住定住だけではなく、その一つ手前の段階として、愛着のある場所に何度も通う人たちを増やしていく。そうした関係をつくること自体が、人のウェルビーイングにつながると考えています。


――今回のワークショップのテーマに「ウェルビーイング」を掲げた背景について、教えてください。


伊藤さん:この先5年後、10年後に求められ続ける企業であるにはどうすればいいのか。社会の課題を起点に解決する形にしなければ、利益だけを追う独りよがりの企業になってしまうという話になりました。人口が減り、家族のあり方も変わるなかで、孤独や孤立も重要なテーマです。その解決を考えると、やはり人と人、人と地域がつながることに行き着きます。2026年3月に策定した「JALグループ経営ビジョン2035」でも、新領域として掲げている考え方です。


――新しい領域への挑戦には、課題がつきものだと思います。


伊藤さん:はい、世の中のウェルビーイングを上げるなどと言っても、JALグループ1社でできることではありません。共感してくださるパートナーが必要なのに、自分たちにないものを持つ方がどこにいるのかが分かりませんでした。外部の企業と何かをやる部分は、かなり手探りの状況でした。


――PALETTEを知ったきっかけを教えてください。


栗原さん:本当に偶然でした。JALでは北海道の津別町でJALガクツナ プロジェクト二地域居住のプロジェクトを展開しており、そのイベントを2025年12月に開催しました。集まった方のなかにPALETTEの会員がいらして、住友商事さんがまさにそういう共創をやられているから、ぜひ来てみてほしいと言われたのです。


鎌北:私はその方からご紹介いただいたのですが、お二人との関係は存じ上げませんでした。「ぜひともお引き合わせしたい方がいるんです!」という熱烈な推薦でした。


――内製でのイベントなど、さまざまな形式もあるなかで、PALETTEとの共創ワークショップを選んだ決め手はどこにありましたか。


伊藤さん:つながれる企業のカテゴリや規模が幅広いところに魅力を感じました。自社の関係値のなかだけで考えると、既存の取引先など限られたやりとりになってしまいます。


社外のコミュニティに入ることで、自力では到達できない企業や個人と出会えます。事業自体が新しいものですから、今までにない新しい方々とつながることが重要でした。




「審査する場にはしない」というこだわり




――「ワークショップで出たアイデアを審査する場にはしない」というコンセプトが印象的でした。どのような議論から固まってきたのでしょうか。


伊藤さん:新しいことは1日2日でできるものではないと考えていました。初めて出会った方々と新しいことを考えるのに、制約を持った状態では始めたくなかったのです。コンテスト的にすると、JALのために何かしよう、という形になり、新しいものは生まれにくくなります。まず発散し、チャンスがあれば一緒に考えるステップを踏みたかったのです。


鎌北:そこはお二人が本当にこだわってくださいました。審査する、されるという関係ではなく、対等な立場で共創できるアイデアを一緒に考えていく。その関係性のつくり方に、強い思いをお持ちでした。


伊藤さん:JALの中期経営ビジョンでも、エコシステムを一緒につくる人たちを共創パートナーと記しています。業務委託先ではない関係値をつくる必要があるので、そこは意識しました。


――インプットセッションでは御社の課題も共有されたそうですね。どこまで出すかは悩ましかったのではないでしょうか。


伊藤さん:課題だらけでしたから、あまり悩みませんでした。制度設計は走り始めたばかりだという状況を包み隠さずお伝えし、だったらこういうことができるのではないかと引き出していただきたかったのです。


――参加者の人選は、どのような意識で進められたのでしょうか。


鎌北:どういう人たちと組めたらいいか、どんなニーズを把握したいかをお二人とすり合わせ、その内容をもとに私が声をかけました。業種業態はバラバラのほうが可能性が広がりますし、企業規模の枠も取り払い、テーマと人柄、熱量を重視して、お声がけさせていただきました。


――クリエイティブマトリクスという発想法がフィットすると考えた理由を教えてください。


鎌北:やりたいことや悩みを聞いただけでは、自由に発散することが難しいのです。無条件で発想を広げるのは、人間にとって苦手な作業かもしれません。むしろ型にはめたほうが、たくさん発想ができることもある。また、一般的なワークショップは「〇〇だったらいいな」という要望をベースにアイディア発散を行うケースも多いですが、今回のワークショップは他人任せではなく、より自分事として捉えていただくことと、やろうと思ったら実現可能性が高いということをベースにしたかったんです。なので、自社の強み×JALさんの強みを掛け合わせれば面白い事業がつくれると考えました。ワークショップの難易度も高く設定しましたが、驚かれつつも皆さん全部こなしてくださり、参加メンバーの熱量と力量の高さには改めて感動しました。




台風接近の夜、それでも全員が集まった




――当日の顔ぶれをご覧になって、率直にどう思われましたか。


伊藤さん:普通に生活していたら出会わなかった方もいらっしゃいました。なかなかお会いできない部署の方も集まり、PALETTEの力を感じています。ワークの時間は皆さん本当に真剣で、私たちも各チームに1人ずつ入っていたので、その様子をすぐそばで見ました。ここから何が生まれるのだろうと、純粋な期待があったのです。


鎌北:しかも当日は台風6号が接近していたんです。西日本から交通が乱れ始め、開催できないかもしれないと心配したのですが、結果は全員参加でした。移動の事情で1名だけオンラインに切り替わり、それ以外は地方の方も現地に来てくださっています。帰りの飛行機が飛ばなくなったので泊まって帰りますとおっしゃる方までいたほどです。JALさんが新しい価値をつくろうと

している姿勢に共感される方や強い興味をお持ちの方が多く、それならぜひつながりたいという意欲が高かったのだと思います。


――生まれたアイデアのなかで、特に印象に残っているものはありますか。


栗原さん:一番記憶に残っているのは、ドローン活用案です。長崎県の離島で、廃校のような遊休資産を活用するという構想でした。私たちもモビリティ領域に取り組み、ドローンの教育を通じて人流を生めそうだと考えていたので、可能性を感じました。


伊藤さん:私は、時期をずらして行き来する、渡り鳥のような暮らしという話が印象に残りました。二地域居住は拠点を都市に置いたまま何度か通う発想ですが、シーズンを区切って行き来するのは少し違います。制度の整理は要りますが、これからの生き方としてありうるのではないでしょうか。


――いずれも地方が関わるアイデアですね。地方から参加された方々の視点は、議論にどう影響したと思われますか。


伊藤さん:地方から来られた方々は、その場所特有の課題や、大切にしているものを知ってほしいという願いをお持ちです。誰でもいいから来てほしいのではなく、ここに魅力を感じた人に来てほしい、と。観光地を見て満足しただけで終われば、その場所を再び訪ねることはありません。感銘を受ける伝統や、尊敬できる人との出会いがあってはじめて、私たちの言う関係になっていきます。


――逆に、JALが提供できたものは何だったとお考えですか。


伊藤さん:JALと聞けば、やはり飛行機の会社です。それは事実ですが、それ以上のことにも取り組んでいます。飛行機を飛ばしている会社が人の流動を真剣に考えていることは、本人たちの口から聞いていただくのが重要で、草の根で知ってもらわないと伝わりません。弊部の部長がよく言うのですが、関係人口は複利です。着実に続けて一定量を超えたとき、増え方が変わると思っています。




ワークショップで終わらせないために



――翌週にアイデアを仕分ける打ち合わせをされたと伺いました。どのような基準だったのでしょうか。


伊藤さん:全部やりましょうとはいきませんので、現在取り組んでいる施策と掛け算ができるかという目線での検討から始めました。たとえば学生とのつながりをつくる施策と組み合わせられるか、と。そのうえで担当メンバーと共有できるものを選んでいます。


栗原さん:これが良い、これは悪いという仕分けはしていません。部内では複数の施策を並行して動かしているので、この施策はあの取り組みとつながるのではないか、という形で各担当に共有しました。たとえばアルミのリサイクルを起点に学生向けの環境教育をされている取り組みは、私たちのやりたいことと重なるので、担当者につないでいます。そうしたケースも含めると、4件から5件は継続して話が動いている状況です。


――こうしたワークショップから生まれたアイデアは次のステップに進まないケースも往々にしてあるかと思いますが、そうならなかったポイントはどこにあったとお考えですか。


鎌北:掛け合わせだと思っています。PALETTEのメンバーに熱量があるのはもちろんですが、それ以上にJALさんの思いが強かった。自社さえ儲かればいいという姿勢ではなく、自社の課題と向き合いながら新しい価値を見出したいという思いで取り組んでおられます。


一番印象に残っているのは、来てくれた人の思いやアイデアを、きちんと社内の検討材料に載せていただいたことです。開催自体をKPIに置く会社もあります。また、出てきたアイデアに対して、単純に目先の収益になるかどうか、という軸で見られがちなところを、長期的な視点で捉えてくださったり、これならこの部署と合いそうだと、フラットに扱ってくださったりして、とても感動しました。


伊藤さん:この話も、もとをたどればコロナ禍が影響しています。あのとき事業はすべて止まり、人をつなぐという生業が全否定されました。自分たちは何のためにこれをやっていたのかと、内省せざるをえなかったのです。そこでリアルで人と人をつなぐ価値は何かという問いが生まれ、今の言葉につながっています。その考え方は、ワークショップの場でも伝わったのかもしれません。


――お互いの印象は、この取り組みを通じて変わりましたか。


鎌北:私自身、JALさんのイメージが大きく変わりました。もともとお堅い印象があって身構えていたのですが、打ち合わせは毎回楽しみになるくらい和やかで、お二人の人柄を通して会社の見え方まで変わっています。


栗原さん:私たちのほうも印象が変わっています。住友商事さんには海外との貿易や大規模開発といったイメージを持っていたのですが、商社は自分でものを持っているわけではないからこそ、イノベーションが生まれるところに一緒に入っていくというお話を伺い、非常に腹落ちしました。私たちの関係・つながりも、地域に目的をつくるからこそ手段である飛行機が盛り上がるという考え方ですから、思想が似ていると感じます。当日は上司も参加したのですが、隣に座った他社の方と自然につながれるフラットな場は、関係・つながりという意味でも良い場所だと話しています。


――今後、PALETTEと一緒にチャレンジしたいことがあれば教えてください。


伊藤さん:ワークショップを開くこと自体が目的ではありません。あの日の議論が次につながったのは、PALETTEという場が継続的に存在しているからだと思っています。あのような熱量のある内容でなかったら、その場で終わっていたはずです。これから物事を進める過程で、あのときの参加者の方ともう一度話したいということが出てくるかもしれません。その際にPALEというコミュニティがあることを、心強く感じます。


振り返りの場で、逆に私たちからPALETTEさんが抱えている課題を伺って、では自分たちにはどんな貢献ができるだろうと考えました。今回は助けて頂いたこともあり、何かお返しすることで、継続的にご一緒したいと思うからです。そういう関係値をベースとして持っておくことの重要性を、今回よく理解できました。


ですから、ワークショップというやり方だけではないと思っています。テーマを変えながら、どうしたら面白いものが生まれるかを、ざっくばらんに試してみたいところです。100個アイデアがあって1個当たればいいという世界ですから、続けることこそが大事だと考えています。


栗原さん:出来上がったものを持ち帰って社内で確認していると、時間だけがかかって具現化しないまま終わりがちです。人とのつながりをつくることは、やってみないと分からない部分が多い。ですからアイデアを出すところで終わらせず、その一歩先の実証やPoCまでPALETTEで完結できると理想的です。


シェアラウンジやイノベーション拠点はよくありますが、ここまで横に座った人同士が共創しようとしている場所は、ほとんどないのではないでしょうか。集まっている会社がそう認識すれば、ここでやるならとりあえずやってしまおうという空気が生まれるはずです。せっかく生まれたアイデアを、社内を通す前にまず動かしてみたいのです。そこから実際に形になる取り組みを増やしていければと考えています。


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