手を動かさなければ、始まらない──髙橋純一さんが、AIエージェントを「みんなのもの」にする
- MIRAI LAB PALETTE 運営事務局

- 2 日前
- 読了時間: 9分

新規事業やスタートアップの立ち上げ期に伴走し、プロダクトをつくり育てる「フォワードデプロイドエンジニア」の髙橋純一さん。MIRAI LAB PALETTE(以下、PALETTE)の開設初期から通い続ける数少ない古参メンバーであり、2026年4月にはAIエージェントを題材にしたハンズオンイベントも開催しました。長く関わるからこそ見える景色や、ここで生まれたつながり、そしてコミュニティの価値について伺いました。
すべては、ひとつの打ち合わせから始まった
――まず、現在のお仕事について教えてください。
新規事業やスタートアップを立ち上げる際に、ビジネスオーナーと一緒に「どうつくるか」「どう育てるか」を議論しながら、プロダクトを形にする仕事をしています。エンジニアとしてのキャリアは20年ほどになります。制作会社やスタートアップで10年ほど経験を積み、その後は大きめの会社の新規事業子会社でCTOを務め、いまはフリーランスとして立ち上げ期のプロダクト開発を引き受けています。直近の1年は、いわゆるAIエージェントをつくる案件が特に増えています。
――PALETTEに最初に足を運んだきっかけは何だったのでしょうか。
独立していた時期に、住友商事の新規事業をお手伝いすることになりました。その実験フェーズでアプリを開発する話があり、打ち合わせの場所が当時地下にあった(*)PALETTEだったのです。やがてその事業は子会社となり、私はそのままCTOとして1年ほど関わりました。PALETTEとの最初の接点は、まさにそのプロジェクトの打ち合わせでした。
(*) PALETTEは2019年4月~12月まで、大手町ビルの地下2階にありました。2020年1月より大手町ビル2階に引っ越しました。
――当時(地下の時代)の印象は覚えていますか。
会議室らしくないユニークなスペースがいくつもあって、面白い場所だと思いながら通っていたのを覚えています。当時はおもに打ち合わせの場として利用していましたが、足を運ぶたびに、何か新しいことが始まりそうな高揚感がありました。
小さな箱から、ドームを埋める場所へ
――現在の大手町ビルの拠点に移ってからは、どのように使っていますか。
ここで知り合った方との打ち合わせ、コミュニティマネージャーに会うため、そしてイベントを開く際に足を運ぶことが中心です。集中して作業をしたいときに、作業スペースとして立ち寄ることもあります。
――一時期、あまり来られない時期もあったと伺いました。
住友商事の案件が落ち着いてから、2、3年ほど足が遠のいていました。そんなとき、MIRAI LAB PALETTEコミュニティマネージャーの鎌北雛乃さんから久しぶりに連絡をもらい、会いに行ったのがきっかけです。最近はイベントをよく開いていると聞き、実際に参加してみると、新しい知り合いができました。その方々と打ち合わせを重ねるうちに、また自然と通うようになったのです。
――移転前と移転後で、雰囲気の変化は感じましたか。
いちばん大きな変化は、人の数がぐっと増えたことです。たとえるなら、古くから応援しているアイドルグループが、小さなライブハウスでしか見られなかった頃から、いまはドームを埋めるほどに成長した、という感覚に近いかもしれません。自分が何か貢献したわけではありませんが、その成長を間近で見て、素直にすごいと感じました。
「自分にもつくれた」という瞬間

――2026年4月にPALETTEで開催された「Zero to Agent」は、どのような狙いだったのでしょうか。
「AIエージェントを初めてつくってみよう」をテーマにしたハンズオンイベントです。開発者に広く知られるテック企業Vercelの公式ホストとして、東京開催の回をPALETTEで引き受けました。エンジニアの方はもちろん、これまでエンジニアリングに触れてこなかったビジネス領域の方にも、気軽にエージェントを触っていただける形にしました。
――企画の背景には、どんな想いがありましたか。
いまは、AIエージェントにさまざまな仕事を任せられる時代になってきました。5人がかりで取り組むような負担の大きい仕事をエージェントに任せ、人間は人間にしかできないことに集中できる社会になったらいいなと考えています。人間に残るのは、問題を見つけて解決することや、対話の中から新しい発想を生むことだと思います。そうした営みに時間を振り向けられたら、もっと面白くなるはずです。だからこそ、エージェントをつくったり使ったりできる人が増えてほしいと願っています。
――座学ではなく、ハンズオンにこだわる理由はどこにあるのでしょう。
人の話を一方的に聞いていると、どうしても眠くなってしまいます。私自身がそうなので、参加した方を飽きさせたくないという気持ちがあるのです。手を動かしたほうが楽しく、実際に触れてみなければわからないことも多いものです。だからこそ、自分で体験してもらう時間を大切にしています。
――印象に残っている場面はありますか。
以前に開いた回では、「バイブコーディング」と呼ばれる、指示を出せばプログラムの中身を理解していなくてもコードが書ける手法を扱いました。これまでエンジニアリングに縁のなかった方が実際に触れて、「自分でもプログラムがつくれるのか」とAIの力強さを体感してくださったのです。その方にとって良い体験になったようで、私としても嬉しい瞬間でした。
――こうしたワークショップは、髙橋さんご自身の活動にも還元されるのでしょうか。
そう思います。場を開くと、参加した方から「仕事のこういう場面で困っている」「この作業をAIに任せたい」という声が自然と上がってきます。そこから、こんな活用のかたちがあるのかと知見が広がり、それが新しいプロダクトやビジネスへ展開していく種になります。実利の面で言えば、そこが何よりの収穫だと感じています。
ただ、いちばんの動機は、もっと素朴なところにあるのかもしれません。講義の最中に楽しんでもらえたり、「勉強になった」と声をかけてもらえたりすると、純粋に嬉しい気持ちになります。人に何かを発見してもらい、喜んでもらえる。そうした瞬間が好きで、イベントや講師の仕事を続けているのだと思います。
――このイベントをPALETTEで開いた意義は、どこにあったと感じますか。
きっかけは、鎌北さんとランチをしていたときに「ハンズオンイベントを開催する会議室がまだ決まっていない」と話したところ、「PALETTEで、PALETTEメンバー向けに開催する形でチャレンジしたらいいじゃない」と言ってもらえたことでした。そのフットワークの軽さは、本当にありがたいものでした。PALETTEには、クリエイティブな領域にも関心を寄せるビジネスパーソンが多く登録しています。「AIで何ができるのだろう」「いろいろできそうだけれど、どう始めればいいのだろう」と感じている方が多く、住友商事グループの方を含め、これまでエージェントを使ったことのなかった人たちに触れてもらう場として、最適だったと思います。
「PALETTEご縁日」の立ち話が、浪江町までつながった

――PALETTEを通じて生まれたつながりについて教えてください。
印象的だったのは、福島県浪江町の千頭数也さんとの出会いです。きっかけは、PALETTEの「ご縁日」というイベントで、鎌北さんに千頭さんを紹介してもらったことでした。私はAIで業務を進める仕事をしているので、その縁から話が広がったのです。2026年4月に改めてお会いした際、浪江町には事業に挑戦したい人がたくさんいる一方で、人手不足に悩んでいるという課題があると伺いました。そこで「AIでどう解決できるか、一緒に考えられたら面白い」という話になりました。
――実際に浪江町を訪れたそうですね。
千頭さんから熱量のこもったお誘いをいただき、数名で2泊3日の日程で伺いました。浪江町を訪れるのは初めてでしたが、迎えてくれる方々が温かく、食事もおいしく、町そのものの魅力にも触れられました。人にとって負担の大きい仕事はできるだけAIに任せたい、という私の考えと、千頭さんの課題感が重なって生まれた、とても良い出会いだったと思います。
――仕事以外のつながりも生まれていると伺いました。
ええ。ご縁日で知り合った、大学院に通いながら働いている方とは、共通点で意気投合しました。私自身もオンラインの大学院でコンピューターサイエンスを学んでいるので、働きながら学ぶという立場が重なったのです。仕事とは少し離れた、プライベートに近い関係が生まれるのも、面白いところだと感じています。
――長く通う髙橋さんにとって、PALETTEはどんな存在ですか。
私にとってのPALETTEは、ほとんど鎌北さんそのものだと言ってもいいかもしれません。鎌北さんを中心に、人とつないでもらってきました。「PALETTEとは何ですか」と聞かれたら、迷わず「鎌北さんですね」と答えてしまうくらいです。旧拠点の頃(地下時代)は週に2、3日、2年ほど通っていたので、昔のオフィスのような感覚も残っています。
――コミュニティとしての価値は、どんなところにあると感じますか。
やはり、人と人をつなぐ「ハブ」になる存在がいることだと思います。いろいろな人が集まっていても、それだけで自然につながれるわけではありません。紹介してもらえる流れがあるからこそ、関係が動き出します。コミュニティマネージャーが受付やイベントの進行役にとどまっている場所も少なくない中で、PALETTEは人をつなぐ機能とフットワークの軽さ、そして多面的な関わり方が際立っています。会費の高いスペースでコミュニティの強さをうたう場所はほかにもありますが、それらと比べても、ここのつながりの強さは群を抜いていると感じます。
目指すのは、AIの「駆け込み寺」

――今後、PALETTEでやってみたいことはありますか。
大きなワークショップだけでなく、3〜5人ほどの少人数で勉強会や読書会を気軽に開いてみたいと考えています。事前の申し込みを設けず、「今日やります」と声をかけて集まるような、朝の勉強会のような形も面白そうです。本を読んで、そこから議論するのが私は好きなので、対話しながら一緒に何かを進める時間をつくれたらと思っています。
――AIに関しては、どんな構想がありますか。
「AIでこれはできますか」という質問をどんどん投げてもらい、「こうすればできますよ」とその場で返していく、駆け込み寺のような場を開いてみたいと思っています。参加した方が何かを持ち帰れる時間にできたらと考えています。AIをテーマにしたコミュニティが生まれれば、いろいろな立場の人にとって良い刺激になるかもしれません。
――これからPALETTEを使い始める人へ、アドバイスをお願いします。
集中して作業をしたいときは、少し照明を落とした静かなスペースが向いています。そして人とつながりたいなら、まずは「PALETTEご縁日」に顔を出してみるのがおすすめです。出店する側も「話そう」という雰囲気で来ているので、自然と会話が生まれます。そこで鎌北さんに「こういう人を紹介してほしい」と伝えてみると、きっと近道になるはずです。
――最後に、運営チームへひと言お願いします。
長い間、本当にありがとうございますという気持ちです。これだけ長く続けてこられて、ここまで大きく成長されてきたことに、ただただ敬服しています。


