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まずは作って、混ざり合う。PALETTEの個性が重なるワークショップ型インスタレーション「タコになるー触覚の解放と分散型知能の実践ー」


2026年4月21日、MIRAI LAB PALETTE(以下、PALETTE)で、ワークショップ型インスタレーション「タコになるー触覚の解放と分散型知能の実践ー」が開催されました。企画と運営を担当したのは、アーティスト兼アントレプレナーの藤井大貴さんと、PALETTEコミュニティマネージャー 鎌北雛乃です。


「修復」をテーマに、言葉よりも直感を重視し、手を動かしながら作品と向き合った本イベントは、参加者の個性が交差し、新たな気づきが生まれる場となりました。


60分間の沈黙。無言で動き続けて生まれるアート


イベントは18時30分過ぎに開始されました。照明を抑えたPALETTEには、深海を思わせるBGMが流れ、机の上には紙や粘土など、図工や美術の時間を想起させる素材が並びます。何が始まるのかについて細かな説明はあえて行われないまま、鎌北の挨拶と「イベント中は言葉を発しないこと」というルールの提示のみで進行していきます。



まず展示スペースに設置されていたのは、能登半島地震で割れた珠洲焼の壺を、漆と銀で修復したもの。外部から伸びたチューブから滴る水が溜まり、ゆっくりと壺の外へと滲み出ています。参加者には一枚の白い布が配られ、自由に配置するよう指示されました。床に布を広げる人、壺に蓋をする人、チューブに結びつける人など、誰かの指示を待つことなく、それぞれが思い思いの方法で布を配置していきます。




続いて、個人での作品制作に移ります。ここでもルールは変わらず、言葉を発さず、手を動かし続けることが求められました。紙粘土やエアパッキンなどの素材を使いながら、盆栽のような形や竜を思わせる造形、さらには寿司や焼き鳥を想起させるものまで、多様なかたちが生み出されていきます。




制作された作品は壺の周囲に配置され、その後、参加者同士の手によって自由に改変されていきました。場所を移して水に浸される、潰されるといった変化が重なる中で、作品の境界も次第に曖昧になっていきます。その後、改変された状態を踏まえてタイトルがカードに記されましたが、そのカードは「自分の作品とは異なる場所に置くこと」を指示され、さらに状況が複雑になっていきました。





開始時とは大きく様相の異なる空間には、壺や水、参加者それぞれの作品、そしてタイトルの書かれたカードが混在しています。意外性のある配置や、意味を読み取りたくなる組み合わせも生まれ、参加者はじっくりと空間を観察していました。



鑑賞の時間が終わると、ようやく会話が解禁され、交流の時間へと移ります。それまで抑えられていた感想が一気に言葉として共有され、それぞれの制作意図や変化の過程が語られていきました。初対面の参加者同士であっても、体験を通じて生まれた関係性を起点に、自然と対話が生まれていきます。


言葉ではなく身体、自分ではなく他者から発想する


イベントに参加したのは、建築、飲食、メディアアート、デジタルテクノロジーなど、異なる分野で活動する12名のPALETTE会員です。必ずしもアートを専門とする立場ではありませんが、それぞれが新たな気づきを得ていました。


まず多かったのは、イベントの自由さに対する驚きの声です。「これまでPALETTEで体験したイベントの中でも、ここまで自由だったものは初めて」といった声に象徴されるように、明確な指示や正解がない状況でも成立した点が、新鮮に感じられていたようです。




作品制作の過程では、他者の介入によって自身の表現が変容していくプロセスが、参加者に強い印象を残していました。自分の作品が他者の手で改変されていく体験は、「他者の動きを起点に発想が拡張される」という新鮮な驚きをもたらします。この経験を通じて「日常の業務においても、無意識のうちに自身の行動を制限していたのではないか」と内省する参加者の姿も見られました。


あえて言葉を使わないというルールも、体験に大きな影響を与えていました。言語を中心とした思考から離れることで、直感や身体的な反応へと意識が向けられ、「理性を手放してよいと感じた」「言葉を使わないことの価値に気づいた」といった声も聞かれました。



また、普段からメディアアートや技術開発で3Dデータを扱う参加者が、その場で作品を3Dスキャンし、別の表現へと展開する試みも生まれました。布や水といった素材特有の質感がデータとして取り込まれ、その場の体験が別の形で再構成されていく様子に、周囲の参加者も関心を寄せていました。


こうしたやり取りの積み重ねを通じて、参加者同士の関係性も自然と深まっていきます。分野や立場の違いを一度横に置き、それぞれの感覚や発想が更新されていく過程そのものが、本イベントの特徴的な体験となっていました。




住友商事のアップサイクル事業経験から、修復をテーマにしたアート活動へ






本企画を主催したアーティスト兼アントレプレナーの藤井大貴さんは、住友商事に在籍していた当時からPALETTEを活用した経験を経て、現在はインスタレーション制作やプロダクトブランドの立ち上げなどを行っています。PALETTEとの関わりや、企画意図について話を聞きました。


——普段の活動について教えてください。


藤井さん もともと住友商事で、アップサイクルやリペア、リユースといった循環系の新規事業に取り組んでいました。社内制度を活用し、1年間、自分が取り組みたい事業に集中できる機会があり、その拠点としてPALETTEを活用していたという経緯です。結果として事業化には至りませんでしたが、この経験をもとに独立しました。


——PALETTEはどのように使われていたのですか?


藤井さん さまざまな人が集まる場所は他にもありますが、PALETTEではコミュニティマネージャーの鎌北さんが、相性の良い人同士を自然につないでくれることが大きな価値になっていると思います。独立後も、機会があるたびにPALETTEを利用しています。

以前、能登半島地震で割れてしまった友人の珠洲焼を金継ぎで修復し、作品として展示したのもPALETTEでした。そこで義援金を集め、現地に届けることができました。また、その展示を見た方から連絡をいただき、金沢21世紀美術館でのグループ展への参加にもつながっています。


——住友商事での取り組みと、独立後の活動がPALETTEを通じてつながっているのですね。


藤井さん アーティストとしての活動も、事業で扱っていた内容とつながっています。修復や保存、循環は良い言葉で語られがちですが、事業を進める中で、綺麗事だけではない側面も実感しました。無条件に「良いこと」として進めるのではなく、「本当にそうなのか」と問いを立てるような作品づくりに取り組んでいます。


例えば、僕は能登半島地震の直後、珠洲焼を作る友人に「頑張りましょう」と声をかけていました。能登から離れずに活動を続けてほしいという思いがあったからです。しかし実際に現地を訪れると、生活の状況は厳しく、外に出る選択も当然だと感じました。自分の「支援したい」という気持ちは、現地に住まないという前提の上に成り立つ自分本位なものでもあり、相手の選択を縛ってしまっていたかもしれないと、今でも考え続けています。





——今回のイベントについて教えてください。


藤井さん 「修復」をテーマにしたインスタレーションを行いたいと鎌北さんに相談したところ、単なる展示ではなくイベント形式にするという提案をいただきました。打ち合わせを重ねる中で、鑑賞者という枠を超え、参加者自身がつくる側にも回る構成になりました。


タコは分散知能を持つと言われており、足に神経の3分の2があるとされています。そのときタコはどのように感じているのか、足が独立して動いて問題を起こした場合、責任はどこに生じるのかといった点に以前から関心がありました。


そこで、人間のように脳が中心となって指示を出すのではなく、タコのように触れることで世界を認識し、自立して動く状態を体験したいと考えました。その結果、言葉で考える前に身体が動き、そこから生まれたものや、他者によって変化していく様子を観察していく。こうしたプロセスを体験してもらう内容となりました。


——参加者同士が言葉を使わずに関わり合う構成には、どのような意図があったのでしょうか。


藤井さん  私は「境界」を固定することにあまり関心がなく、肩書きのようなものも、できるだけ曖昧にしておきたいと考えています。タコの頭と腕のように、関係性そのものを曖昧にしてみたいと考えました。そのため、一つの完成された作品を提示するのではなく、人が関わることで常に変化し続ける状態をつくろうとしました。


PALETTEと美術館では、体験する人の層が異なります。美術に親しみのない人でも、どのように見ればよいのか、何をすればよいのかと考えて手が止まってしまわないよう、まず布を置く、手を動かすといった行為のきっかけを用意しました。まず動き、その後に意味を考える。その順序のほうが、タコの振る舞いにも近いと感じています。



——イベントが終わってみて、いかがでしたか?


藤井さん 最初は緊張している様子もありましたが、途中から徐々にほぐれ、さまざまなものが混ざり合っていきました。参加者同士の作品が絡み合い、常に更新され続けていく流動的な空間が印象に残っています。


情報化が進むことで物事が固定化されやすくなる中で、それに対する一つのカウンターのような状況が生まれたと感じています。AIのように知識や構造をなぞるのではなく、身体から発信することで生まれるものがあり、その一端に触れることで、人間の奥深さを改めて実感する時間となりました。



アートの力が引き出したPALETTEのポテンシャル


企画の段階から藤井さんと対話を重ねてきた鎌北は、今回の試みを「ビジネスコミュニティとしての新たな実験」と位置づけていました。アートという、正解のない問いを投じることで、PALETTEにはどのような変化がもたらされたのでしょうか。運営の視点から見た、コミュニティの可能性について話を聞きました。


——今回のワークショップを企画した経緯を教えてください。


鎌北 PALETTEには、新しいことにチャレンジする人が集まっています。テーマを絞ったイベントとは異なるアプローチとして、ビジネス的な文脈から一歩離れ、アートをきっかけにまず関係性を築き、そこから何かが生まれるきっかけになればと思い、今回のイベントを企画しました。


参加してくれた方々は、それぞれ自分の軸を持ちながら、異なる価値観と混ざり合うことに前向きな人たちです。藤井さんも含め、どのような化学反応が起こるのかは読み切れませんでしたが、その不確実性も含めて期待していました。





——PALETTEとしてもチャレンジングな企画だったのですね。終えてみていかがでしたか?


鎌北 目的や指示を最小限にして、曖昧なまま進めたにもかかわらず、皆さんが自然に動き始めてくれたので手応えを感じました。カオスな状況をそのまま受け入れ、楽しめるメンバーがいたこと自体が、PALETTEというコミュニティが持つ価値を象徴しています。


作品のかたちも、私たちの想像を超えるものになりました。交流の時間に入って初めて会話を交わす場面でも、「あの作品をつくった人」「あのときこう動いた人」といった形で、所属や肩書きではなく、体験をもとに関係性が生まれていたのが印象的でした。


——混沌とした状態から関係性が生まれていきましたね。


鎌北 未知のものや、目的がはっきりしていないものに対しても、前向きに関わっていけるのはPALETTEならではだと思います。藤井さんの企画も一般的なわかりやすさとは離れたチャレンジングなものでしたが、未完成の状態でも受け入れることができました。


今回のイベントは、すぐに何かの成果につながるものではないかもしれません。ただ、「あれは何だったのか」と考え続けるような、モヤモヤした感覚を持ち帰ること自体にも意味があると思っています。そうした感覚が時間を経て別の文脈と結びつき、人と人をつなぐきっかけになる可能性もありますから。


PALETTEは、そのような実験を受け止める場です。今回のイベントでは、未知の物事にワクワクしながら取り組んでもらえる人が集まり、新しい化学反応から変化が生まれていました。まさにPALETTEらしい、象徴的な取り組みになったと感じています。




多様なバックグラウンドを持つ人々が集まり、偶発的な出会いや相互作用の中から新たな気づきが生まれていた本イベント。PALETTEが持つ、人と人との化学反応が起こる場としての魅力や可能性を象徴する時間となっていました。


PALETTEでは今後も、アートを題材にしたイベントが予定されています。肩書きではなく体験を通じて生まれる関係性は、これからも新しい価値へとつながっていくはずです。

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