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肩書きを手放して、深く出会うーーPALETTEで続く「森の時間」とは


名刺交換も、肩書きの紹介もないまま深く対話する4時間半――。MIRAI LAB PALETTE(以下、PALETTE)で4年続く「森のR&D『Will』」は、街なかで森の時間を再現する取り組みです。森で無理なく一昼夜を過ごす「よる森」を14年続ける一般社団法人YORUMORI代表理事の河村智行さんと、PALETTEコミュニティマネージャー 鎌北雛乃に、立ち話から始まったコラボレーションと、その先に育ちつつある「カジュアルで深い関係性」について伺いました。


14年目を迎えた「森の時間」のはじまり


一般社団法人YORUMORI代表理事の河村智行さん
一般社団法人YORUMORI代表理事の河村智行さん

――まず、YORUMORIの活動と河村さんについて、PALETTEの会員のみなさまに向けて簡単にご紹介いただけますか。


河村さん「森の中で無理なく一昼夜を過ごす活動を続けて14年目になります。少し引いて見ると、街から離れる、普段の思考や行動のパターンから離れる、そういう意味合いがあると感じています。離れることで、近づくものがある。たとえば自分の今の状態に気づく、本当に思っていることや感じていることに、ちょんと触れるような機会になる。そんな営みを続けてきました。大切にしているのは、自然・自分・他者との3つの対話です。富士山麓、阿蘇、熊野古道、奥日光、上野村と、日本各地で開催してきました」


――14年前、最初に開催したワークショップが原体験になっているそうですね。


河村さん「最初に開催したのは、山中湖のキャンプ場でしたが、当日は大嵐の予報で。参加者の方全員に連絡をして『ずっと雨の可能性があるので、来なくていいですし、キャンセル料もかかりません。』とお伝えしていきました。それでも、8割くらいの方が来てくださいました」


――嵐のなか、何を感じましたか。


河村さん「雨と風が吹きつけるなか、僕は裏方として走り回っていたんですが、ふと気づくと、参加者の方々がみんなとても楽しそうにしている。人ってこんな嵐の中でも楽しめるのか、「人ってすごい」とまず思いました。


夜になり、ずっと続くと予報されていた雨が止みました。みんなで暗い森をゆっくり歩き、いちばん高い場所まで行って見上げたら、空が晴れていて、天の川が見えるくらいになっていたんです。とても感動的なシーンで、「自然ってすごい」という気持ちが沸き起こった瞬間でした。人もすごいし、自然も信じるに値する。そう感じられた体験だったんです。

 

終了後には、森で過ごすことで、「元気になった」「人と人が自然につながる」というフィードバックもいただきました。それ以降は、どうしたらこれを再現できるだろうと考えながらやっています」


立ち話から始まった、PALETTEとの出会い


MIRAI LAB PALETTEコミュニティマネージャー 鎌北雛乃
MIRAI LAB PALETTEコミュニティマネージャー 鎌北雛乃

――PALETTEとYORUMORIの出会いの経緯を教えていただけますか。


鎌北「PALETTEの近隣にある、普段からさまざまな連携を行っている別の共創施設に私が訪れたタイミングで、その施設の館長さんとネットワークコーディネーターさんから河村さんを紹介していただいたんです。河村さんは、ちょうどその日にその施設を舞台に、街で森を再現するワークショップを開催するために準備を進めていらっしゃいました」


――最初の印象はいかがでしたか。


鎌北「正直に言うと、最初は河村さんのことを少し怪しいかも、と思ってしまっていて(笑)。だって、街で森って何?と。何をやるのかも全くわからなかったですし、聞いてみてもよくわからない。私はあまり関わることはないだろうな、と思っていたくらいでした」


――河村さんは、どんな気持ちで足を運ばれていましたか。


河村さん「『ぜひPALETTEにいらしてください』と鎌北さんから言われて。そしたら、行かなきゃと思いますよね。後で思えば、鎌北さんは、社交辞令で言ったつもりが、“本当に来てしまった”と、少し驚かれたかもしれません(笑)」


――そこからどう転機が訪れたのでしょうか。


鎌北「コロナ禍が明けはじめた2022年の夏でした。当時の私は、PALETTEのコミュニティをどう育てていくか暗中模索の時期でして。会員同士が一度のイベントで盛り上がっても、終わってしまうと何も残らない関係性をどう変えていくかを模索していたんです。そんなタイミングで、河村さんが『一回やろう』と、PALETTEで初めての森のR&D『Will』を開催してくださいました」


――河村さん、その時の動機を伺えますか。


河村さん「僕自身も、PALETTEで参加させていただいたワークショップで、似た違和感を持っていたんです。その場はすごく盛り上がるのに、終わった瞬間に何事もなかったかのように関係性が消えていく。コミュニティの力にはもっと別の形があるのではないか、と。鎌北さんが抱えていた課題感とも重なって、立ち話を重ねるうちに、一度やってみようとなりました」


鎌北「一人時間とグループでの対話を重ねていくなかで、自分が大切にしているものが見えてくるんです。価値観が再認識される部分もあれば、新発見の部分もありました。参加者同士は肩書きや所属を抜きにして対話を行います。ワークショップが終わると、自然にお互いの会話が弾むし、自然体で深い話ができる。その状況を体感した時に、これはまさに自分が作りたかったコミュニティの形だと感じたんです。この体験をもっと多くのPALETTEメンバーのみなさまにもしていただきたいと思って、そこから定期開催をお願いしました」



名刺を置いて深く出会う、森のR&D「Will」


PALETTEのhubで実施している森のR&D「Will」(写真提供:YORUMORI)
PALETTEのhubで実施している森のR&D「Will」(写真提供:YORUMORI)

――森のR&D「Will」は、どんなプログラムなのでしょうか。


河村さん「Reflection and Dialog(内省と対話)の頭文字を取って、森のR&Dと呼んでいます。『Will』では、らしさ、やりたい、ありたい、守りたい――自分にとって大切なことに触れる時間を過ごしていただきます。最初に大事にしているのは、五感を働かせること。普段の思考から離れると言っても、考えるのをやめろと言ったところで思考は勝手に働きます。だから、視覚・聴覚・嗅覚などの感覚を働かせながら、感じる力を取り戻していきます。そして、五感で感じるのと同じように、いくつかの問いに触れて感じることを言葉にする。一人で過ごし、集まってシェアする。これを重ねていくのが基本の流れです」


――特徴的なのは、参加者同士で名刺交換をしないことだと伺いました。


鎌北「『名刺や肩書き、過去の経歴を手放して、自分らしくいたままで仲良くなれた』という参加者の声が届きます。最後まで対話していた人が何者なのかわからないまま終わる、という場面さえあるんです。ビジネス系のワークショップではなかなか経験できないと感じます。肩書きから解放された状態で、話している内容は結構深かったりする。本質的なのに、なかなかできない――それがPALETTEの森では起きている気がします」


――河村さん、肩書きを置くことの意味を教えてください。


河村さん「肩書きを交換すると、会社や役職で相手へのイメージが先に立ってしまうんです。それは日常では悪いことではないけれど、森のR&Dでは、先入観や固定観念が、もしかしたら邪魔をしてしまって、素直に受け取れない原因になるかもしれません。森の中で自然と起きる、思考から感覚へのシフト。自分の内に起きていることに気づいて、言葉だけでなく非言語も含めて受け渡していく、素の対話のプロセス。そうした森の時間を、都市でも再現したいと思っています」


――もう一つの裏方の妙が、鎌北さんによる「探究グループ」のグルーピングだと伺いました。


鎌北「20人集まったら、3〜4人の小グループに分けて対話を進めます。組み合わせは一人ひとりの状況を踏まえて慎重に決めています。この人とこの人はぜひ仲良くなってほしいな。この人なら相手の悩みに気づけそうだな。この人なら新しい気づきをくれそうだな。そんな思いを巡らせながら決めるんです。グルーピングは私からの愛情だと思っています。入り口の部分を私が考えて、河村さんがその愛を受け取ってくださって、その場を育ててくれる」



焚き火を模したランプを囲み、会員同士の対話が弾む(写真提供:YORUMORI)
焚き火を模したランプを囲み、会員同士の対話が弾む(写真提供:YORUMORI)


――参加者からのリアクションはいかがですか。


鎌北「『会いたかった人に会えた』『なぜこの組み合わせにしてくれたんですか』『どうしてわかったんですか』というリアクションが返ってくることがよくあります」


――鎌北さんご自身も、森に4年通われてきて何か変化はありますか。


鎌北「森のR&DをPALETTEで開催しつつ、YORUMORIが主催する本物の森での活動に通い始めて4年目くらいです。日々の感じ方や物事の受け止め方は、ずいぶん変わってきました。河村さんが事あるごとに深呼吸を大切にされるので、森にいるときは何度も深呼吸を丁寧に行います。そういった経験から、日常でも大きく深呼吸を3回するだけで、森にいる時と同じ感覚に戻ってこられるようになったんです。コントロールできないものをコントロールしようとしない、というマインドも身についてきて、余計なストレスが減ったように感じます」


――参加者層の幅広さも、PALETTEならではかもしれませんね。


河村さん「会社いろいろ、役職いろいろ、仕事いろいろ、タスクいろいろだけではなくて、価値観もいろいろ。そういう多様さに、毎回触れる感覚があります」


鎌北「一見こういう活動には興味がなさそうだなと勝手に思っていた、お堅い仕事をしているメンバーが、実はすごく関心を持って参加してくださった、ということが何度もありました。私自身も、その人をイメージで判断してはいけないと、改めて気づかされる場でもあります」



自ずから生まれるコミュニティへ



――集客の状況は、当初と今とで変わってきましたか。


鎌北「最初はPALETTEメンバーに広く募集してもなかなか集まらなくて、私から個別に声をかけて参加者を集めていました。でも今はもう、ほぼ個別声かけしなくても自然と集まりますし、定員を超えるくらいの人気になっています。こういう体験や活動が大事だよね、と気づいた人が世間的にも増えてきたのかもしれません」


――ワークショップ後の関係性についてはいかがですか。


鎌北「PALETTEの森に参加した人同士は、本当に仲良くなるんです。普通にPALETTEの施設に来たときに、たまたま同じ回に参加したメンバー同士が出会って『久しぶりです』みたいな会話が、私を介さなくても自然発生的に起こります。一緒にご飯に行く仲になっている方もいれば、そこから仕事の打ち合わせにつながっているケースもあります。出口は私たちが決めるものではなく、それぞれのご縁に任せたい。当初河村さんと話していたことが、こうやって花開いて実現しているんだなと思うと、うれしく感じます」

 

河村「これは、鎌北さんがメンバー一人ひとりと関わる働きとは別に、メンバーのみなさん同士がお互いの内側に触れながら関係を深め合う——Willならではの関係の育ち方ではないかと思います。」



――ワークショップ以外のコラボレーションも生まれているそうですね。


河村さん「2024年2月にPALETTEさんが主催された『地球にやさしいPALETTEサステナブルフェア』に、YORUMORIブースとして出展させていただきました。施設内のhubの一角に、揺れるろうそくのランプと薪を持ち込んで、森の画像や沢の音を流して、街なかに森の時間の気配を立ち上げる試みです」


鎌北「YORUMORIさんの活動を、あのフェアでは『心のサステナブル』と表現させていただきました。自分・他者・自然と向き合うことが、結果として環境や地球への意識へと自然につながっていく。その実感を、河村さんとは共有できていると感じています」


――河村さん、印象的な参加者の声があれば教えてください。


河村さん「『自分について、これまで見えていなかったところまで見ることができた』とか、『真逆の価値観にも意外なほど共感できた』『自分と向き合うことで、周りの人とも向き合えると実感した』などという気づきを話してくださる方もいます。チームを持つ管理職の方が、『改めてチームを大切にしたい』と語ってくださることもあって、実際にご自身の会社の研修として導入されたケースもあります。

なかには有給を取って毎回参加してくださる常連の方もいて、『PALETTEで一緒に過ごした仲間に共鳴を感じる』と話してくださるんです。プロフィールではなく価値観で出会える場として受け取ってくださっているのだろうと感じます。こういった声は、『カジュアルで深い関係性』の表れかもしれません。」


――今後、PALETTEと一緒にやっていきたいことは。


河村さん「森では、多様な存在が想い想いに在りながら、関わり合って、様々なものが育まれ続けています。PALETTEと森の在り様を並べてみると、多様×自律×関係という共通の要素が見えてくるんです。多様な人が集まり、コミュニティマネージャーの鎌北さんをはじめとする人の関わりによって、個々の内発的な動機や関係が生まれて、共創の土壌が育まれていく。Willという取り組みは、この共創の土壌を“メンバー同士で育んでいく”ための時間でもあると捉えています。メンバー数が9000人、1万人に迫る規模になってくると、コミュニティマネージャーの鎌北さんがすべてに直接働きかけるのは現実的ではない。だからこそ、メンバー同士のあいだから、ボトムアップで何かが生まれてくる――それがコミュニティの本当の力なのだろうと感じます」


――その先に、どんな展開を思い描いていらっしゃいますか。


河村さん「多様×自律×関係という3つの要素が共創を育むということは、PALETTEに限らず、あらゆる組織やコミュニティに通じる大切な課題で、可能性でもあると感じています。これは私見ですが、東京の真ん中にあるPALETTEの森で深めてきた取り組みが、分野も場所も超えて、様々な組織やコミュニティへとアウトリーチしていく――そんな道も、模索していけたら面白いと思っています」

鎌北「”初めまして、一緒に何かやりましょう”とは、なかなかなりません。だからこそ、信頼関係や相互理解が大事です。事業をやることありきではないけれど、ここで生まれた出会いが、いろいろな人にとって何かしらの形に残るものへとつながっていけたらと思います。出口は私たちが決めるものではないし、コントロールするものでもない。みなさんの心に残る体験となり、それがどんどん広がっていく――そんなカジュアルで深い関係性を、もっと作っていけるといいなと感じています」





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