1台から世界へ──スマートプリ機「HARTi Photo」がPALETTEで育てたもの
- MIRAI LAB PALETTE 運営事務局

- 2 日前
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「感性が巡る、経済を創る」を企業理念に掲げ、スマートプリ機「HARTi Photo®」を展開する株式会社HARTi(ハーティ)。
代表取締役の吉田勇也さんは、MIRAI LAB PALETTEに約1年半にわたってショールームを設け、プロダクトを世に広めてきました。在庫が1台だけだった創業初期から、今や数十台単位の増産体制へ。その成長の軌跡をPALETTEとの関わりとともに振り返っていただきました。
書道少年が見つけた「クリエイターのインフラ」
── HARTiを創業された経緯と、「感性が巡る、経済を創る」という理念に込めた思いを教えてください。
小さい頃から15年ほど書道を続けていて、本格的にアートマーケットの構造を知りたいという思いでイギリスの大学に進んだとき、日本のアート市場が世界44位であるのに対し、イギリスは世界3位のアートマーケットを持っているという現実を目の当たりにしました。その差を埋めるためのインフラがまだ足りていないと感じ、アーティストをインキュベーションする仕組みを作ろうと、23歳のときに起業したのが2019年のことです。
理念の中で「アートが巡る」とは言わず、あえて「感性が巡る」という言葉を選んでいます。
従来の「美術品」のような形があるアートにとどまらず、生み出す知的財産(IP)のようなものも、クリエイターが生み出す商材として事業対象に含めています。そういったクリエイターの感性をしっかりお金に変えていくことをど真ん中でやっていこうというのが、HARTiという会社です。
── 現在の主力プロダクト「HARTi Photo®」に行き着くまでには、事業の転換があったと聞きました。
創業から8期目になりますが、三つの事業を経てきました。最初はアートギャラリーを持って、インフルエンサーにリアルなアート作品を販売し、SNSで価値を上げていくモデルでした。ただ、コロナでリアルが難しくなったのでデジタルアート・NFTへ移行したところ、今度はNFT市場が当初の想定から様変わりしました。そこでフィジカルとデジタルを掛け合わせてクリエイターを支援できることはないかと考えたとき、「フォトブース」というアイデアに辿り着いたのです。
従来のゲームセンターの「プリントシール機」を想定して作ったというよりも、IPとコラボレーションできることを前提に設計しています。筐体が大きいと設置場所も限られ持ち運びも難しくなるので、小型でIPタイアップができるものとして開発しました。たまたまこの領域に空白があったので、国内でも使っていただく機会が増えていきました。
倉庫では生まれなかったもの

── PALETTEにショールームを設けたきっかけを教えてください。
知人にPALETTEの会員がいたのがきっかけです。コミュニティ・マネージャーの鎌北さんにも繋いでいただき、ちょうど大きな旧型筐体から今の小型モデルに切り替えたタイミングで設置を始めました。当時は在庫が1台しかありませんでした。
それ以前は別の場所を借りていたのですが、駅から徒歩20分ほどの倉庫のような場所で、来たら帰るだけという環境でした。来ていただいても体験で終わり、コラボレーションの芽がなかなか生まれなかったのです。場所を持つこと自体が難しい中で、まず多くの方に見ていただける機会を作るという目的で、PALETTEに置かせていただいた側面もありました。
── 設置してみて、以前との違いを実感した瞬間はありましたか。
PALETTEに移ってからは、見ていただいた後に問い合わせが入るようになり、他の企業から連絡が来ることも出てきました。単なるショールーム以上の付加価値があると感じました。それから、私たちが積極的に外部の方をPALETTEへお連れするという流れも自然と生まれ、1年半で1,000人近くをここに案内したと思います。その中から鎌北さんにおつなぎし、PALETTEの会員になってくださった方もいます。
── 鎌北さんとの連携で、外部イベントにも参加されたと聞きました。
東京建物さんをおつなぎいただき、大手町の森で開催されたイベントに、HARTi Photoを1台使っていただいたことがあります。まだプロダクトを作り始めた初期の段階で、一般の方が通る場所に置いてしっかり稼働させてもらえたことは大きな経験でした。
その後も住友商事さんが関わる神田エリアのイベントなどで機会をいただき、合計で10回ほどPALETTEから機器を搬出・搬入させてもらいました。PALETTEに機器を置いていたから物流コストを抑えられましたし、その都度の搬出を許していただけたことがとてもありがたかったです。
体験が信用をつくり、信用が事業をつくった
── 「PALETTEに来れば、ほぼ100%受注できる」とおっしゃっていましたが、その理由はどこにあるとお考えですか。
一番大きいのは、決裁者が来てくださる環境があることだと思います。以前の環境では、若手社員が視察に来て「よかったです!」と上申しても、そこで話が止まってしまうことがありました。PALETTEには、それなりの立場の方が足を運んでくださいます。
何よりPALETTEという場が持つ、雰囲気の力も大きいと感じています。住友商事さんが運営されているこの場所に置かせていただいているという事実が、スタートアップである私たちにとって信用になりました。
無機質な倉庫とは全く異なり、PALETTEコミュニティの中にあるプロダクトなんだという印象を来訪者に持っていただけます。大手企業の方々がPALETTEに来られて受注につながったこともありましたし、株主の方がここで機器を見て出資を決めてくれたこともありました。
── 体験してもらうことで、想定外の発見もあったのでしょうか。
オンラインで説明してもいまひとつという反応だった方を実際にPALETTEへお連れして、社員の方に使っていただいたら「めちゃくちゃいい」という評価になります。プロダクトは体験してもらうことが一番の説得力になると、このショールームで実感しました。
使われ方の広がりも発見でした。従来のプリントシール機は若い女性向けというイメージがあると思いますが、例えば過去事例の中で、上司と部下が企業研修で使って仲良くなるというケースが意外と多かったりしたのです。プロダクトが場の関係性を変えるような形で使われていることが分かりました。
── スタートアップが大企業との取り組みをPoCで終わらせず継続させるために、大切なことは何でしょうか。
私たちも過去にはPoC止まりで苦戦していた時期もあります。そこから学んだことがいくつかあります。
一つは、プロダクトがわかりやすいこと。BtoBである以上、結果がわかりやすければやすいほど発注につながりやすい。私たちの場合、XやInstagramで使ってくれたお客さんの熱狂がそのままSNS上でのバイラルなどで可視化されるので、継続発注に繋がる仕組みを作ることが出来ました。
もう一つはビジネスモデルの設計です。固定費でのレンタルにリスクを感じる企業には、レベニューシェアで提案するなど、相手が感じるリスクを徹底的に排除してきました。継続的に発注してもらうためには、最初の仕組みの設計が重要だと思っています。
PALETTEから世界へ、そして次の連携へ
── JETROに採択されて北米や中東、欧州の展示会に出展するなど、グローバル展開が加速しています。その先の狙いを教えてください。
将来的には、常設型のスマートプリ機も導入し、世界中に常設することでアーティスト・クリエイターのIPを世界に届けるインフラにしたいと思っています。アニメを例にすると、海外展開時に売上の8%しか日本の企業に還元されていないのが現状で、残りはNetflixをはじめとするグローバルベンダーに収益の大半が流れてしまいます。
HARTiなら、その比率を日本企業に大きく戻せます。コンテンツD2Cをやっていくことで、日本のIPホルダーにしっかりお金を返す仕組みをつくっていきたい。今年に入ってアメリカのラスベガス、ニューヨーク、中東のバーレーン、欧州はフランスでも設置実証実験を行い、来月からはアジアでも展開を始めていきます。日本のコンテンツが人気な世界各国へ、スマートプリ機の常設を目指します。
── ショールームは3月末で一区切りを迎えますが、PALETTEとの関わりを振り返っていかがですか。
PALETTEがあったからこそ生まれた事業展開しかなかったと思っています。1台しか在庫がなかったところから始まって、来てくださった取引先の顔ぶれを見ると今はほぼ大手企業ばかりです。スタートアップでありながら大企業と商談できる環境を整えてくれた場所でした。「PALETTEを使い倒した」、自信を持って、そう言えますね。
PALETTEのおかげで生まれたつながりも今も続いています。知人を通じて出会った会員の方とは、海外の映画イベントでHARTi Photoを使いたいというお話が現在も進行中です。
── 今後もPALETTEとやってみたいことはありますか。また、これからPALETTEを活用しようとしているスタートアップへのメッセージをお願いします。
PALETTEの会員の方々に体験していただく機会をぜひ作りたいと思っています。1回使っていただいたらリピーターになってくださるケースが非常に多いので、ポップアップ的なイベントをPALETTEで開催できれば、私たちにとっても大きな意味があります。
スタートアップへのアドバイスとしては、ハードウェアを持っている会社は絶対にPALETTEを活用した方がいいと思います。見てもらわないと価値が伝わらないプロダクトにとって、ここは非常に有効な場所です。周辺にいらっしゃる大手企業や開発会社の方々との接点を作るには絶好の環境で、PoCから実際のビジネスに進む足がかりとして使い切っていただきたいです。
ただ、ずっとここにいるのがゴールではありません。信頼をつくる場所として活用して、次のステージに出ていく。私たちが歩んできた道が、その一つのモデルになれれば嬉しいです。


