top of page

日本発のステーブルコインが切り拓く金融の未来——JPYC代表・岡部典孝さんが語る最新動向

世界で約50兆円が流通し、VISAとMasterCardの決済額を合わせた規模を超えるステーブルコイン市場。その急成長の波に乗り、日本初の円建ステーブルコイン「JPYC」が新たな金融インフラとして注目を集めています。MIRAI LAB PALETTEで開催されたセミナーでは、JPYC株式会社(以下、JPYC)代表取締役の岡部典孝さんが登壇し、ステーブルコインの基礎から最新の事業展開までを解説しました。



なぜ今、ステーブルコインが注目されるのか


JPYCの本社はMIRAI LAB PALETTEと同じビルの4階に入居しており、岡部さんは日頃からPALETTEのコミュニティと交流を重ねてきました。(関連記事)
JPYCの本社はMIRAI LAB PALETTEと同じビルの4階に入居しており、岡部さんは日頃からPALETTEのコミュニティと交流を重ねてきました。(関連記事

ステーブルコインに関するニュースは、今や毎日のように報じられています。世界全体での発行・流通規模は約50兆円に達し、そのほとんどがドル建てとなっています。日本円建ては全体の0.01%程度に過ぎませんが、グローバル市場は急激な成長を続けています。


ステーブルコインの流通額は3,100億ドル(約50兆円)に達し、決済ボリュームはVISAを超える勢いで成長している(JPYC社提供資料より)
ステーブルコインの流通額は3,100億ドル(約50兆円)に達し、決済ボリュームはVISAを超える勢いで成長している(JPYC社提供資料より)

注目を集める理由の一つは、ステーブルコインが米国債市場において重要な買い手となっていることにあります。米国債の新規買入ランキングでは、連邦準備制度、中国政府に次いでステーブルコイン発行体が3位に位置しており、各国政府も無視できない存在となりつつあります。


もう一つの特徴は、決済ボリュームの大きさです。1日あたりの決済量は少なくとも10兆円から40兆円規模で推移しており、発行額の50兆円が2〜3日で1回転する計算になります。これほど高い回転率を持つ決済手段は従来の金融システムには存在しませんでした。すでにVISAとMasterCardの合計決済額を超えており、銀行決済を凌駕するポテンシャルを秘めています。



世界に先駆けた日本の規制整備


こうした状況を受け、日本政府は国家戦略としてステーブルコインの推進に乗り出しています。2022年に法律を整備し、世界で最初にステーブルコインに関する規制の枠組みを確立しました。


日本の規制の先進性について、岡部さんは「世界のどの政府も明確な規制を整備できていない段階で、日本は『電子決済手段』という新しい概念を発明した」と強調しました。暗号資産は裏付けがなく価格が変動するのに対し、ステーブルコインは裏付け資産として法定通貨や国債などを持つことで、法定通貨と1対1で交換できる性質を持ちます。そのため、暗号資産とは異なり、銀行預金に近いものとして「為替取引」と整理されました。


この規制の枠組みは、その後アメリカやヨーロッパにも波及しました。アメリカでは2024年12月にようやく法律が成立し、大枠が固まったばかりです。日本は約3年先行して規制を整備したことになります。



JPYCの誕生と発展


JPYCは2019年に岡部さんが一人で創業したスタートアップです。当時、世界のステーブルコイン市場は600億円規模に過ぎませんでした。それが現在は50兆円、2030年には600兆円規模になるとの予測もあり、約10年で1万倍の成長を遂げています。


創業以来、JPYCは規制当局への働きかけを続けてきました。2020年から規制整備を要望し、2021年に議論が始まり、2022年に法律が制定されました。その間、プリペイド型での発行や、米国のステーブルコイン発行体であるサークルとの提携など、体制整備を進めてきました。


2023年の法施行後は約2年をかけて金融機関レベルのセキュリティ体制を構築しました。審査は銀行設立に匹敵するほど厳格だったといいます。そして2024年8月にライセンスを取得し、10月27日に発行を開始しました。日本の新規制に準拠して発行された世界初のステーブルコインです。



他のデジタル通貨との違い


デジタル形式の通貨には、中央銀行が発行するCBDC(中央銀行デジタル通貨)や、既存の銀行預金をブロックチェーン上に載せた「トークン化預金」など、複数の形態が存在します。その中でJPYCの特徴は、「不特定多数間で自由に送金できる」点にあります。


JPYCは日本発で唯一、パブリックチェーン上でグローバルに接続可能なステーブルコインとして位置付けられる(JPYC社提供資料より)
JPYCは日本発で唯一、パブリックチェーン上でグローバルに接続可能なステーブルコインとして位置付けられる(JPYC社提供資料より)

預金型のトークンは銀行口座を持つ人同士でしか取引できず、信託型のステーブルコインも信託銀行が承認した者の間でのみ流通します。一方、JPYCは銀行口座がなくても、ウォレットさえあれば誰でも保有・送金が可能です。


岡部さんは「究極的には人格がなくてもいい。AIでも取引できる、AIでも持つことができる」と語ります。今年の政府の骨太の方針でも、AIエージェント経済圏は注目トピックとして取り上げられました。数十億ものAIエージェントが自律的に世界中で取引を行う経済圏が到来した場合、銀行口座の開設を前提とする従来の決済手段では対応が困難です。JPYCの株主であるサークル社も、将来の主要な取引手段はステーブルコインになると予測しています。



安全性を担保する仕組み


ステーブルコインの信頼性に対する懸念も根強くあります。この点について岡部さんは、JPYCの安全性の高さを強調しました。JPYCは資金移動業のライセンスで運営されており、発行額に対して101%の裏付け資産を保有することが義務付けられています。


この101%という基準は非常に厳格なものです。万が一の際に法務局が弁護士を雇って分配する費用まで見込んだ設計となっています。銀行預金の場合、自己資本比率は8%程度となり、銀行が破綻した場合1金融機関・1預金者あたり元本1,000万円まで(とその利息)を上限として預金保護(ペイオフ)の対象となりますが、ステーブルコインの場合は100%の保全が期待できます。


また、マネーロンダリング対策も整備されています。ブロックチェーン上の取引はすべて追跡が可能であり、不審な動きをしているアドレスをスコアリングする仕組みが導入されています。違法取引に関与しているウォレットの情報は把握でき、リスクの高い取引が検知されれば、内容の確認やブロックも可能です。銀行送金の場合、一度資金が海外に流出すると追跡が困難になるケースもありますが、ブロックチェーン上ではモニタリングによって高い透明性を確保できます。


想定を超えるスピードで広がるエコシステム

JPYCの特徴的な点は、発行体の許可なく誰でもサービスを構築できることにあります。ブロックチェーン上のオープンなインフラであるため、ウォレットの開発や決済サービスへの組み込みが自由に行えます。


この特性により、想定を超えるスピードでエコシステムが拡大しています。JCBとりそな銀行による実証実験や、SMBCカードによるマイナンバーカードを活用したJPYC決済の実証実験など、大手金融機関の取り組みがJPYC側の関知しないところで次々と進んでいます。


KDDIの持分法適用会社であるハッシュポートが運営するウォレット「HashPort Wallet」でも、発行開始からわずか数日後に大規模なJPYC配布キャンペーンが始まりました。現在ではPontaポイントからJPYCへの交換といった機能も実装されています。


さらに、ChatGPTなどの生成AIにJPYCの送金機能を組み込んだコードがオープンソースで公開されており、自然言語での指示によって送金が実行される仕組みも無料で利用可能な状態にあります。



既存の金融インフラを根本から変える可能性


従来のクレジットカード決済では複数の中間業者が介在するが、JPYCでは消費者から店舗への直接送金が可能になる(JPYC社提供資料より)
従来のクレジットカード決済では複数の中間業者が介在するが、JPYCでは消費者から店舗への直接送金が可能になる(JPYC社提供資料より)

ステーブルコインは、既存の金融の仕組みを根本から変えるポテンシャルを秘めています。


クレジットカード決済を例に取ると、従来は国際ブランド、イシュア、アクワイアラ、加盟店といった複数のプレイヤーが介在し、手数料は約3%、入金にも時間がかかっていました。JPYCの場合、消費者が店舗に直接送金すれば取引は完了します。中間業者が不要になるため、手数料を大幅に削減できます。


JPYCはサークル社のパートナーとして、100カ国以上が参加するオンチェーンFXレイヤー「Arc」に日本円ステーブルコインとして参画している(JPYC社提供資料より)
JPYCはサークル社のパートナーとして、100カ国以上が参加するオンチェーンFXレイヤー「Arc」に日本円ステーブルコインとして参画している(JPYC社提供資料より)

グローバル展開においても、サークルが発行するUSDC(ドル建ステーブルコイン)との交換がすでに可能となっています。現在の交換手数料は片道0.05%程度であり、流動性が高まればさらに低下する見込みです。アジア各国のステーブルコインとの交換も視野に入っており、従来の空港両替所のような高い手数料を払う必要がなくなる可能性があります。



質疑応答で深まる議論


セミナー後半では、会場とオンラインの参加者から多くの質問が寄せられ、活発な議論が展開されました。

JPYCの収益モデルに必要な人材像については、岡部さんはセキュリティ人材の重要性を挙げました。攻撃が高度化する中、一度でも流出事故を起こせば信頼が失われるためです。中央銀行が発行するCBDCとの競合可能性については、トランプ政権がCBDC発行に否定的な姿勢を示しており、日本も追随しにくい状況にあると分析しました。仮にCBDCが発行されても、国が発行する以上は信頼性重視となるため、自由度の高い領域はステーブルコインが補完する形で共存関係が生まれると岡部さんは見ています。


収益構造については、ブロックチェーン上での運用機会が鍵を握ります。DeFi(分散型金融)での運用利回りは国債金利より高いことが多く、そうした運用先が増えることでJPYCを保有し続けるインセンティブが生まれ、発行残高の拡大につながります。


海外で鉄道事業を手掛ける参加者からは、フィリピンやイギリスで運営する路線との連携可能性について質問がありました。岡部さんは、各国通貨のステーブルコインが発行されJPYCと交換可能になれば、外国人旅行者が現地通貨を持っていなくても電車に乗れるようになると展望を示しました。国際規格が統一されているため、独自規格を開発するより対応コストが低いことも利点です。


日本のブロックチェーン普及が遅れている理由については、規制面では間違いなく世界最先端だが、規制が整わないとチャレンジしにくいという国民性が背景にあると岡部さんは分析しました。ただし、規制が整った今は追いつくための土壌があり、会計処理など一部の領域ではむしろ日本が先行しているとも付け加えました。

教育関連の参加者からは、入学金などの送金への活用について質問がありました。LINE NEXTがJPYCのLINEアプリ上で活用検討中であり、例えば保護者から学校への送金機能や決済機能が追加される見込みです。日本の銀行口座を開設しにくい外国人留学生の増加を背景に、海外からの送金手段としても活用が期待されます。


ポイント経済圏との連携についても関心が寄せられました。年間約2.9兆円発行されるポイントのうち、10〜20%は使われずに失効しています。こうした未使用ポイントに流動性を与える可能性について、岡部さんは発行体として一切関与せず自由に使ってもらうスタンスだと説明しました。ポイント事業者にとっても、多数のサービスと個別連携するより、JPYCという共通規格に対応する方が開発コストを抑えられるメリットがあります。



社会の限界を突破するというミッション


JPYCは「社会のジレンマを突破する」というミッションを掲げています。岡部さんは、JPYCの利用に発行体の許可は一切不要であり、違法でない限り自由にイノベーションを起こしてほしいと参加者に呼びかけました。


現在の利用者数は、本人確認を済ませたユーザーが約1万3000人、JPYCを保有するウォレット数は約8万3000に達しています。グローバル市場では最大手のテザー社が約30兆円を発行し、年間約1.2兆円の利益を上げています。JPYCもその水準を目指しており、将来的には銀行振込手数料をゼロにするサービスの実現も視野に入れています。


ステーブルコインという新しい金融インフラの可能性と、日本が世界をリードできるチャンスがあること——セミナーは、参加者にそうした期待を抱かせる内容となりました。後半の交流会では、岡部さんやJPYCのマーケティングチームと参加者との間で、さらに踏み込んだ議論が交わされました。



PALETTEで広がる学びと出会い


MIRAI LAB PALETTEでは、今回のようなビジネスの最前線で活躍する起業家や専門家を招いたセミナー・イベントを定期的に開催しています。ステーブルコインやブロックチェーンをはじめとする先進的なテクノロジー、新規事業開発、オープンイノベーションなど、多様なテーマについて第一人者から直接学べる機会を提供しています。イベント後の交流会では、登壇者や他の参加者とのネットワーキングを通じて、思いがけないビジネスの種が生まれることも少なくありません。会員の皆さまには、ぜひ今後のイベント情報をチェックし、積極的にご参加いただければ幸いです。


岡部さんとPALETTEの関わりについては、こちらでもご紹介しています。

併せてご覧ください。


CATEGORY

ARCHIVE

TAG

〒100-0004
東京都千代田区大手町1-6-1
大手町ビル 2階

open : 9:30 - 19:00

close : sat, sun, and holidays

FOLLOW US

  • MIRAI LAB PALETTEのFacebookページ

© 2018-2025 SUMITOMO CORPORATION.

bottom of page