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「移動は人だけ」の世界を目指して ― 衣料シェアリング「Any Wear, Anywhere」が描く旅の未来


旅行者が衣服を持参せず、現地で借りて返す。そんな新しい旅のスタイルを提案する衣料シェアリングサービス「Any Wear, Anywhere」が、2026年1月に大幅なアップデートを実施しました。当初、住友商事の社内起業制度から生まれたこのサービスは、アパートメントホテル「MIMARU」を運営するコスモスホテルマネジメントと手を組み、訪日ファミリー旅行者の「荷物問題」解決を目指しています。MIRAI LAB PALETTEを拠点に進められてきた両社の協業の軌跡を追いました。


「衣食住」の常識を覆す発想


旅行に出かけるとき、私たちは当たり前のように衣服をスーツケースに詰め込みます。現地ではレストランで食事をし、ホテルに宿泊するのに、なぜ「衣」だけは自宅から持参しなければならないのでしょうか。この素朴な疑問から生まれたのが、衣料シェアリングサービス「Any Wear, Anywhere」(以下、エニウェア)です。


大人2人・子ども2人の3日分のセットが5万2000円でレンタル可能。服は身長や年齢に応じて自動的にコーディネートを提案するほか、希望に応じて個別に選択も可能です
大人2人・子ども2人の3日分のセットが5万2000円でレンタル可能。服は身長や年齢に応じて自動的にコーディネートを提案するほか、希望に応じて個別に選択も可能です

発案者は住友商事の守谷美帆です。2008年に入社し、金属事業部門の経理やメキシコ駐在などを経験してきた守谷は、プライベートで世界40カ国以上を旅するなかで、荷物のパッキングや帰宅後の洗濯といった煩わしさを感じていました。「衣服も現地で調達できれば、旅はもっと自由になる」。その思いを形にすべく、守谷は住友商事の社内起業制度「0→1チャレンジ」に応募し、2020年1月に最終審査を通過しました。


エニウェアのコンセプトは「移動は人だけの世界へ」。訪日旅行者がオンラインで衣服を予約し、宿泊先のホテルで受け取って利用し、滞在終了時に返却するという仕組みです。貸し出す衣服にはアパレルの余剰在庫や古着を活用し、サーキュラーエコノミーへの貢献も目指しています。2023年7月には日本航空との協業で実証実験を開始し、サービスの需要や環境価値の検証を進めてきました。


約2年間の実証を経て一定の手応えを得たエニウェアは、本格的な事業化に向けて中長期的なパートナーを探していました。そこ巡りあったのが、コスモスホテルマネジメントでした。


「先を越された」と思った瞬間からの事業提携


MIMARUの客室の一例(写真提供:コスモスホテルマネジメント)
MIMARUの客室の一例(写真提供:コスモスホテルマネジメント)

コスモスホテルマネジメントは、東京・京都・大阪に全27施設のアパートメントホテル「MIMARU」を展開しています。全室キッチン付きで約40平米から、定員4名以上という広々とした客室が特徴で、宿泊客の9割がインバウンド、ファミリー層という独自のポジションを築いてきました。


同社で新規事業を担当する佐々木麻美さんは、もともとMIMARUの現場でフロントスタッフやホテルマネージャーを務めてきた「現場を知る人」。約5年間にわたって様々な宿泊客と接するなかで、ある光景が強く印象に残っていました。


Any Wear, Anywhereを運営する住友商事Beyond Mobility SBUの後藤圭祐(左)、コスモスホテルマネジメント KURO-GO事業推進部 佐々木麻美さん(右)
Any Wear, Anywhereを運営する住友商事Beyond Mobility SBUの後藤圭祐(左)、コスモスホテルマネジメント KURO-GO事業推進部 佐々木麻美さん(右)

「ご家族4人で、大きなスーツケースを2つ抱えていらっしゃるんです。小さなお子様を連れながら、衣服がぎっしり詰まった荷物を運ぶ姿を見て、移動って大変だなと感じていました」


佐々木さんが指摘するのは、客室での問題もあります。MIMARUは広い部屋がセールスポイントですが、スーツケースを広げてしまうと足の踏み場が少なくなり、せっかくの空間が狭く感じられてしまうのです。


2024年11月、佐々木さんは新規事業を担う部署へ異動。これまでの現場の知見を活かした、新規事業の企画立案を担うことになりました。インバウンドファミリーの旅をより豊かにする事業を考えるなかで、「衣服を現地で調達できれば、多くの課題が解決するのではないか」というアイデアに行き着きます。以前から空港〜ホテル間でスーツケースを当日配送するサービスは手掛けていましたが、荷物そのものを減らせないかと考えたのです。しかし、リサーチを進めるうちに、あるニュースが目に飛び込んできました。


「住友商事がすでに同じようなサービスをやっている。先を越されたと思いました」(佐々木さん)


それでも佐々木さんは諦めませんでした。知人を介して住友商事との接点を得ると、「相手にされないだろうな」と思いながらも連絡を取りました。


その連絡を受けたのは、住友商事でエニウェアの運営を担当する後藤圭祐でした。


「ちょうどエニウェアの今後について社内で議論していた時期でした。コスモスホテルマネジメントさんからお話を聞くと、ターゲットとしている顧客層が我々と重なる部分が多く、ホテルと一緒にサービスを展開する親和性の高さも感じました」(後藤)


互いの現状を共有するうちに、両社の目指す方向が一致していることが明らかになりました。4月からは本格的な協業の検討が始まり、サービス拡大に向けた座組みを再構築することになりました。


現場の知見が生んだサービス革新


新たなパートナーシップのもとで、エニウェアは大きく生まれ変わることになりました。


最も大きな変化は、オペレーションの刷新です。従来は少人数のチームが手作業で衣服の管理や発送を行っていましたが、事業をスケールさせるためには自動化が不可欠でした。そこで衣服のレンタル事業で実績を持つエアークローゼットと提携し、在庫管理からクリーニング、発送までを一括して委託する体制を整えました。

この移行作業は想像以上の大仕事だったと後藤は振り返ります。数千着の衣服を新しい管理システムに載せるため、秋の2ヶ月間は通常業務と並行しながら移管作業も進めました。


サービス設計においては、佐々木さんの現場経験が大きく活かされています。


「インバウンドのお客様は、説明を読むのを面倒に感じる方が多いんです。どんなに丁寧な説明文を用意しても、ファーストインプレッションで判断されてしまう。だから、最初の画面でしっかりキャッチした上で、離脱させない工夫が必要でした」(佐々木さん)


こうした知見を踏まえ、予約システムも一新されました。新しいシステムでは、利用者が性別・サイズ・季節を選ぶと、AIがおすすめの衣服セットを自動で提案します。気に入らないアイテムがあれば個別に変更することも可能です。


「すべてを自分で選びたい人もいれば、選ぶこと自体が面倒な人もいます。まずセットを提示して、気に入らないものだけ交換できる形がベストだという結論に至りました」(佐々木さん)


従来のサービスでは、利用者の生の声を聞く機会が限られていました。しかしMIMARUと組むことで、実際に宿泊する顧客の属性や好みを把握しやすくなり、サービス改善のサイクルを回しやすくなったといいます。


PALETTEが育んだ「片肘張らない」関係



両社の協業において、MIRAI LAB PALETTEは欠かせない存在となっています。


4月以降、エニウェアのプロジェクトチームは毎週水曜日にPALETTEで定例ミーティングを開いてきました。当初は互いの本社で会議を行う案もありましたが、「会議室の中では新しいものは生まれない」という考えから、PALETTEを拠点にすることを選びました。


「どちらかの社内だと、周囲の目があってどこか緊張感が生まれてしまいます。PALETTEでは同じように新規事業に取り組む方々が周りにいるので、気楽に話ができるんです」と後藤は語ります。


佐々木さんも、PALETTEならではの効果を実感しています。


「片肘張らないでいいというか、リラックスして意見交換ができます。もし毎週どちらかの本社で会議をしていたら、『一緒にやっている』というより『会社対会社』という関係になっていたかもしれません」(佐々木さん)


両社の距離を縮めたのは、PALETTE内の「hub」でした。毎週水曜と金曜の17時から19時には、無料でアルコールやソフトドリンクが提供され、会員同士が気軽に交流できる時間が設けられています。定例ミーティングの後にこのPALETTE内のhubに参加することで、仕事の話だけでは生まれない関係性が育まれていきました。

「会社の会議室だと、打ち合わせが終わればそれで解散になりますよね。でもPALETTEだと、hubでドリンクを片手に話を続けることができる。そこで一気に距離が縮まったと感じています」と後藤は振り返ります。


定例ミーティングだけでなく、両社のメンバーはPALETTEで日常的に仕事をしています。佐々木さんは水曜日のほぼ丸一日をPALETTEで過ごし、後藤も打ち合わせの前後にそのまま作業を続けることが多いといいます。近くにいることで、わざわざ電話をかけるほどでもない小さな相談がすぐにできます。


「大きな相談より、ちょっとした確認の方が圧倒的に多いんです。近くにいれば『そういえば、あれどうでしたっけ』という会話から、いろいろと確認できる。それが進捗を早めていると思います」(後藤)


「相手がすぐ近くにいるうちに、今のうちにこれを処理しておこうという意識が働きます。どうせ後で壁にぶつかるなら、聞ける時に聞いておこうと。それで確実にプロジェクトの進行は早くなりました」(佐々木さん)


PALETTEでの交流は、エニウェアのプロジェクトにとどまりません。PALETTE内のhubの時間にはコミュニティマネージャーの鎌北を介して、さまざまな業種の会員と知り合う機会も生まれています。佐々木さんは名刺交換をきっかけに、後日あらためて事業の壁打ちをする機会を得たこともあるといいます。


後藤も、他の会員との交流から得られる価値を感じています。


「他社の事例を知れるだけでも、『そういうやり方があるのか』という気づきになります。新規事業で悩んでいる方は多いので、意見交換しながらお互いに連携の可能性を探っていける。この施設がそういう場になっていると感じます」(後藤)


佐々木さんはPALETTEの価値をこう表現します。

「通常の業務だと、ホテルや観光業界の方との会話が中心になってしまいます。でもPALETTEに来ると、まったく違う業種の方と関われる。私たちの業界では当たり前のことが、他の業界では当たり前ではない。だからこそ新しいものが生まれる可能性を感じています。


本業の中にいると、どうしてもその価値観や文化に影響を受けてしまいますが、それを一度切り離して外でやることには大きな意義があると思います。全力で考え事ができるのも、ここの良さですね。会社だと周囲の目がありますが、ここなら誰も気にしない。同じような思いを持った人が近くにいて、ふとした意見交換から化学反応が起きる。そこがPALETTEの素晴らしさではないでしょうか」


旅の常識を変える挑戦は続く



エニウェアは2026年1月から再スタートを切ったばかり。まずはMIMARUの宿泊客を対象にサービスを提供し、利用者の反応を見ながら改善を重ねていく計画です。


短期的な目標について、佐々木さんは「MIMARUのゲストにどれだけ使っていただけるか、どれだけ共感していただけるか」を挙げます。そして中長期的には、「訪日旅行者の旅を豊かにする一助となるビジネスにしていきたい」と意気込みます。


後藤は、エニウェアが目指す姿をこう語ります。

「これは一つの行動変容だと思っています。メルカリがいつの間にかなくてはならない存在になったように、旅行するときにこのサービスがあれば衣服を持っていかなくていい、そんな世の中ができるといいなと思います。それが創業者である守谷の考えであり、私たちがずっと抱いてきた思いでもあります」(後藤)


PALETTEを拠点に進んできたこの協業は、両社にとって新たな可能性を開くものとなりました。佐々木さんは今後への期待をこう語ります。


「PALETTEで様々な方に私たちの取り組みを知っていただくことで、また新しいご縁が生まれるかもしれません。ビジネスの入り口がどこにあるかはわからない。そういった可能性を秘めているのがPALETTEだと感じています」(佐々木さん)


住友商事の社員に向けて、後藤はPALETTEの活用を勧めます。

「会社の中だけで仕事をしていると息が詰まることもあります。ここに来れば、パートナー候補になる方々もいれば、業務推進の参考になる方々もいる。同じような悩みを抱えている人も多いので、会話が広がる場所として使ってもらえればと思います」


最後にエニウェアの発案者で、住友商事で同事業を牽引する守谷美帆からのコメントを紹介します。


最初にAny Wear, Anywhereをスタートした2023年7月以来、予想以上の反響で海外メディアにも多数取り上げて頂いた一方で、継続的に潜在インバウンドの方にタビマエでサービスを周知する難しさも実感していました。 そんな中、佐々木さんからのお声掛けは、まさに転機でした。活動拠点としてきたMIRAI LAB PALETTEは、こうした他社との出会いを共創の実現につなげ、挑戦を加速させるにあたり大きな役割を果たしました。 私も二児の母となり、2020年に最終選考を突破した当時の自分より家族旅行の荷物負担とAny Wear, Anywhereの必要性を実感しています。今後、MIMARUのメイン宿泊者である家族連れインバウンドの旅をより快適で自由なものにできると思うとワクワクが止まりません!

「移動は人だけ」という世界の実現に向けて、エニウェアの挑戦は新たなステージに入りました。PALETTEから生まれたこのパートナーシップが、旅の常識をどう変えていくのか。その行方に注目しましょう。

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