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量子の社会実装は、遠い未来の話じゃないーーPALETTEで体感する、量子技術の最前線

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量子コンピューターという言葉を、さまざまな場面で耳にするようになりました。どこか未来の話題のようにも思えますが、量子技術はすでに研究機関の枠を越え、社会や現場が抱える課題を解く手段として活用されはじめています。


MIRAI LAB PALETTE(以下PALETTE)を運営する住友商事でも、2020年に量子コンピューター活用の取り組みがスタートし、その後「Quantum Transformation」として本格的に展開されてきました。物流、エネルギー、鉱山、都市開発など、住友商事ならではの多様な事業領域で、量子技術を応用したプロジェクトが進行しています。


そんな住友商事、そして縁あるパートナー企業やPALETTE会員が一堂に会し、量子技術の今を体感するイベントがPALETTEで開催されました。


「本気で頑張る、量子技術の社会実装」と題し、2025年11月20日に実施された本イベントでは、量子技術の実用事例紹介に加え「量子を使って自分たちには何ができるのか」を考えるワークショップも行われました。新しい技術と多様な産業領域が結びつき、気づきや可能性が次々と生まれたイベントの様子をお届けします。


住友商事が手がける量子プロジェクト


イベントに参加したPALETTE会員は、量子の実用性に関心を持つ人、異分野との掛け合わせを模索する人、テックトレンドを追う人など、多様なバックグラウンドを持つ参加者ばかり。普段は量子に触れていない人も多く、イベント進行を務めた岡崎裕介(住友商事 デジタル推進戦略部 QXチームリーダー)は「この多様な混ざり合いでどんな反応が起きるか楽しみ」と期待を述べました。


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イベント冒頭では、岡崎より「Quantum Transformation」が取り組んできたプロジェクトが紹介されました。住友商事はCVCとしての量子関連スタートアップへの投資や、各事業部と連携した実証・実装に取り組み続けています。


具体的な成果として紹介されたのが、九州電力と共同で進める避難行動の最適化プロジェクト。災害時の混雑を避け、全体の避難行動を効率化するためのモデルを量子計算で検証し、従来より避難時間を3割ほど短縮できる可能性が示されています。社会インフラに関わる領域で量子技術が実用化される、象徴的な事例として紹介されました。


また、鉱山の採掘計画やシフト配置の最適化を図る取り組みも紹介されました。自然条件やコスト、作業工程といった多くの変数が絡み合う難しい領域で、量子技術がどのように活用できるのかを検証したもので、海外の鉱山オペレーションを対象とした実証として進められています。


住友商事 物流ソリューション事業ユニット 統括 犬山直輝
住友商事 物流ソリューション事業ユニット 統括 犬山直輝

続いて、住友商事 物流ソリューション事業ユニット 統括の犬山直輝から、物流現場における量子活用の事例として「スマイルボードコネクト」が紹介されました。


物流センターでは、どの作業を誰が担当するか、どの時間帯にどう割り当てるかといった判断を、毎日のように行う必要があります。しかし、これまでは担当者がホワイトボードの前で、作業者の得手不得手や人間関係、倉庫内の温度や動線など数多くの要素を考慮しながら時間をかけて決めており、極めて属人的な運用が続いていました。


ベルメゾンロジスコの現場で利用されていたホワイトボード
ベルメゾンロジスコの現場で利用されていたホワイトボード

この状況を前に、住友商事の事業部は「物流センターにとっての『最適』とは何か」という根本から見直す作業に着手します。現場担当者への丁寧なヒアリングから始まり、労働条件の違いや作業の難易度、空調や動線といった環境要因、人間関係やスキルレベルなど、多様な変数を外部化して整理。こうしたプロセスをもとに、業務分析やモデル設計、数理的な定式化を重ねていきました。


二年以上の時を経て、量子アニーリング技術を活用した「スマイルボードコネクト」のサービスリリースに至りました。大手物流企業であるベルメゾンロジスコでは導入後、半日以上かかることもあった人員配置が、数分で自動的に算出されるようになりました。結果はモニターに即時反映され、計算速度が速いため、作業量の急な変動や進捗に合わせたリアルタイムな更新も可能に。リーダーの負担が大きく軽減され、精神的な余裕が生まれたことで、パートやアルバイトとのコミュニケーションも改善し、働きやすい雰囲気づくりにもつながっています。


スマイルボードコネクトの作業領域
スマイルボードコネクトの作業領域

複数拠点で得られた知見を基に扱えるパラメーターの幅が広がり、住友商事としてのノウハウが積み上がっている点も特徴です。スマイルボードコネクトは、現場固有の条件を細かくモデル化しながら改善を重ねてきたことで、より多様な状況に対応できる仕組みへと進化しつつあります。


犬山は「レイバーコントロールのSaaS事業として、今後はさらに幅広い分野での展開が見込まれます。量子アニーリングの特性を生かすことで、仕事量や作業内容、リソースの数と質のバランスをより適切に組み合わせられる点は大きな強み。物流や医療、建設など、産業ごとに『最適』の姿は異なりますが、業界をよく知るパートナーと連携しながら、技術とビジネスの可能性を広げていきたい」と語り、分野横断の協働から生まれる新しい活用に期待を示しました。



量子の可能性をギュッと学ぶ特別ワークショップ


NTT docomo R&D戦略部 服部拓海さん
NTT docomo R&D戦略部 服部拓海さん

イベント中盤では、NTT docomo R&D戦略部の服部拓海さんより、基地局パラメータの最適化に量子技術を活用した取り組みが紹介されました。変数が多く複雑な領域では、量子コンピューティングがどのように効いてくるのか? そのリアルな事例に、参加者は真剣に耳を傾けていました。古典計算との比較など、現場目線の示唆に富んだ内容が続き、量子技術が通信インフラの課題解決にどのように寄与しうるかを具体的に知る機会となりました。


その後、イベントは後半のワークショップへ。量子の可能性をより身近に感じてもらう、特別プログラムの講師を務めたのは、JellyWareの稲垣尚起さんです。


JellyWare チーフビジネスデザイナー  稲垣尚起さん
JellyWare チーフビジネスデザイナー  稲垣尚起さん

稲垣さんは量子技術リテラシー人材育成/オープンイノベーション創発人材育成プログラム「Q-Quest」の講師を務め、高専生・大学生向けの「Q-Quest GROW」も含め、多くの人を量子技術の世界に案内してきました。「Quantum Transformation」でもパートナーとして多くの現場で活動してきた縁から、今回のワークショップを企画いただきました。


通常は16時間かけて学ぶ内容を、今回は特別に90分に凝縮。「最適化ワークショップ」という名の通り、まずは量子アニーリング技術が「最適化計算に強い」という特性を、身近な事例を交えながらわかりやすくインプットしました。物流における荷積み計画の高速化、化粧品処方の探索、航空貨物の混載業務の自動化など、多様な分野で量子による最適化が活用されはじめていることが紹介されました。


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続く実践パートでは、参加者が量子で「何ができるか」を自ら探っていくワークに挑戦。巡回ルート、リソース割り当て、スケジュール、マッチングなど、最適化問題の基本パターンをベースに、課題や領域を置き換えながらアイデアを膨らませていきます。最終的にはチームごとにビジネスアイデアとして磨き上げ、その価値や可能性を議論しました。


最終発表では、「出張営業を効率化しつつご当地グルメも楽しめるツール」「万博会場の混雑や待機時間を最適化するシステム」など、日常のちょっとした不便から大規模イベントまで、スケールの異なるアイデアが登場。テーマパークの待ち時間改善、サプライチェーンの効率化、工事現場の施工計画など、複数の変数が絡み合う現場において量子アニーリングの強みが発揮できるアイデアが揃いました。


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量子に馴染みの薄い参加者が多かったにもかかわらず、どれも実現すれば大きな価値を生みそうな提案ばかり。こうしたアイデアは、実用化が進む量子技術と結びつけば、そのまま新規事業のタネにもなり得ます。稲垣さんは最後に「量子と仲良くなるために、これからもどんどんアイデアを発想していきましょう」と呼びかけ、場全体に熱が広がる中でワークショップは締めくくられました。



量子技術が多様な分野と結びつく


量子技術の現在を学びながら、参加者自身の事業領域と結びつけて体感する時間となった本イベント。避難行動の最適化や物流現場での活用といった事例をもとに、ワークショップを通じてアイデアが具体化。量子が「遠い未来の技術」ではなく、すでに現場で価値を生み始めていることを実感できる内容となりました。イベントを進行した岡崎に、企画の意図や手応えを聞きました。


住友商事 デジタル推進戦略部 QXチームリーダー 岡崎裕介
住友商事 デジタル推進戦略部 QXチームリーダー 岡崎裕介

——このイベントを開催した経緯を教えてください。


岡崎:PALETTE会員へのアンケートで「コラボレーションしたい相手」を尋ねたところ、多くの方が住友商事を挙げてくださったことが、大元のきっかけです。普段は会員同士のコミュニケーションや、関連する技術・企業を軸にイベントを行うことが多いのですが、今回はあえて住友商事の実践的な事業にフォーカスしました。第一弾として量子技術をテーマに据え、NTT docomoさんやJellyWareさんといったパートナーも招いて開催に至りました。


——ワークショップの様子はいかがでしたか?


岡崎:参加者のみなさんは、普段から量子に触れているわけではありません。むしろ広告、メディア、ファンドなど、これまで量子には縁がなさそうな幅広い分野の方が来てくださったことが、とても新鮮でした。ワーク中も「自分の業務で量子がどう使えるか?」という視点がしっかり現れており、本気で考えてくれている姿が印象的でした。


——今後の展望を教えてください。


岡崎: AIや量子といった新しい技術にも、それぞれ得意・不得意があります。大事なのは「量子を使うこと」そのものではなく、自分たちの現場の課題に対して、いちばんフィットする手段を選べているかどうかです。今日のプログラムが、その視点で“まだ最適化されていない業務”に気づくきっかけになっていれば嬉しいです。


私たちとしても、今日ここでいきなり共同プロジェクトを決めてほしいわけではありません。まずは「量子を使うと、こういう発想もできるんだ」と知っていただき、PALETTEの会員のみなさんが、それぞれの現場に持ち帰ってアイデアを温めてくれたらいい。そこから一緒に取り組むプロジェクトが生まれ、結果として量子分野全体の底上げにつながっていけばと考えています。





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