スクランブル交差点のように交わる挑戦者たち——大企業の新規事業ピッチイベントレポート
- MIRAI LAB PALETTE 運営事務局

- 12 時間前
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大手企業における新規事業創出への取り組みが加速する中、他社のプロジェクトに触れる機会は意外と限られています。
2025年11月10日、MIRAI LAB PALETTEで開催された「Scramble Innovation Meetup」には、リコー、エア・ウォーター、住友商事、本田技研工業の社内新規事業プロジェクト推進者が集結しました。
天体撮影サービスから医療機器、メタバース事業、さらには食品アップサイクルまで、業界の枠を超えた多彩な挑戦がピッチ形式で共有されました。「業界横断で新しい発想が生まれる」—そんなスクランブル交差点のような場で、どのような事業が披露されたのか。当日の様子をレポートします。
リコー:天体撮影サービス

「リコリモ」は、リコーのアクセラレーションプログラム「TRIBUS」から生まれた天体撮影サービス。オーストラリアに設置した大型望遠鏡をクラウド経由で操作し、誰でも本格的な天体撮影ができる仕組みを提供しています。
日本は温暖な気候と上空のジェット気流により天体撮影に不向きな環境ですが、晴天率80%のオーストラリアなら、日本で100時間かかる撮影がわずか1時間で完了します。
天体撮影の専門家からも「リモート撮影なんて」と懐疑的だった声が、実際の品質に感動して今では熱心なユーザーになっているといいます。現在の課題は認知の絶対量不足と、潜在層への訴求力強化。天体写真を撮影するだけでなく、クリエイティブな体験や子供向け教育など、宇宙を日常のワクワクに変える取り組みを模索しています。
エア・ウォーター:医療用内視鏡の社会実装

エア・ウォーターが挑むのは、日本発の技術を守りながら社会実装を進める医療機器開発です。
慶應義塾大学の小池教授が発明した0.5mmのプラスチックレンズ技術と、整形外科医が抱えていた「患者の見えない痛み」への課題意識が結びつき、新しい内視鏡が誕生しました。
従来の関節検査は全身麻酔で切開して内視鏡を挿入する必要がありましたが、この技術により局所麻酔で済む日帰り検査が可能になります。さらに使い捨て(ディスポーザブル)方式のため、滅菌作業が不要で衛生面でも優れています。
短期的には関節検査、中期的には耳の鼓膜治療、長期的には光によるがん治療への応用を目指し、2026年秋のリリースに向けて開発が進んでいます。特許技術の海外流出を防ぎながら、患者の痛みに寄り添う医療機器として期待が高まっています。
住友商事:メタバース事業

住友商事が注目するのは、4億人が集まるメタバースプラットフォーム「Roblox」です。
ユーザーの半数以上が13歳以下で、1日平均2.5時間も滞在するこのプラットフォームで、ゲームコンテンツの企画・制作事業を展開しています。ゲーム事業初挑戦のメンバーながら、個人クリエイターや制作会社と協力して生み出したコンテンツは、合計8億回以上プレイされる実績を上げました。
YouTubeやTikTokのようなアルゴリズムベースのプラットフォームのため、参入障壁が比較的低く、チャレンジしやすい環境が整っています。今後はメタバース上でのアバター用アイテム販売、Shopify連携によるリアル商品販売、さらにはメタバースの人気キャラクターをリアルで展開するなど、メタバースならではの消費体験創出に挑戦していきます。
本田技研工業①:振動フィードバック式ゴルフレッスン

ゴルフレッスンにおける「言葉では伝わらない体の動かし方」という課題を、振動フィードバック技術で解決する取り組みです。
レッスンでは言葉で指導されても、実際の体の動きが理解できないという生徒の声や、コミュニケーション能力の高いコーチの確保が難しいという現場の課題がありました。
開発中のデバイスは、上半身に装着した振動モジュールが理想の動きとの差をリアルタイムで振動として伝えます。
プロのスイングをモーションデータとしてクラウドに保存し、実際の動きと比較しながら、3次元的な動きを振動で直感的に理解できる仕組みです。
競合製品が1方向の動きしか対応していないのに対し、本田技研工業が開発した製品はは手の振り上げや回転など上半身の動きの大半をカバーします。まずはレッスンプロへのリース提供から始め、将来的には他のスポーツへの展開も視野に入れています。
本田技研工業②:モビリティ気象観測事業

ゲリラ豪雨による経済被害は年間2000億円にのぼりますが、予測が困難な理由は地上付近の観測点が圧倒的に不足しているためです。既存の気象観測機器は1台あたり購入費20万円以上、年間運用費10〜40万円と高コストで、十分な観測網を構築できません。
そこで本田技研工業が提案するのが、モビリティを活用した気象センサーネットワークです。リース会社の車両にカメラ、GPS、気温湿度センサーを搭載し、走行中のデータをクラウドに集約します。
低コストかつ保守性が高く、世界最高密度の気象観測が実現可能です。2023年の気象業務法改正により、検定を受けていない観測機器のデータも予測に利用できるようになり、事業化の道が開けました。損害保険会社などをターゲットに、防災情報として提供していく計画です。企画担当者が長年思い描いてきたアイデアを基に1年前から具体化してきた構想が、規制改革をきっかけについに動き出します。
本田技研工業③:醤油粕アップサイクル燻製材

燻製市場が800億円規模に成長する一方、原料となる桜チップなどの木材価格は高騰しています。広葉樹は成長が遅く、温暖化による森林減少も進んでおり、入手リスクが年々高まっています。
一方、食品業界では食品リサイクル法により年間10万トンの醤油粕アップサイクル燻製材が牛の飼料として処理されていますが、酪農家の減少によりこのリサイクルループが崩壊しつつあります。この2つの課題を同時に解決するのが、醤油粕アップサイクル燻製材から作る燻製剤です。
食パンに含まれる糖分とタンパク質を加熱するとメイラード反応が起き、桜チップを凌駕する色付け性能を発揮します。さらに殺菌効果のあるフェノール類が桜チップの10倍も発生し、常温保存や減塩も可能になります。
すでに埼玉県から使用許諾を得て特許も取得済み。価格も段階的に引き下げ、木材より安価な燻製剤として市場投入を目指します。2034年には国内市場50億円、世界市場の5%獲得を目標に掲げ、日本の和食文化を世界に広げる挑戦が始まっています。
登壇企業に聞くーーピッチイベントに登壇して
今回のイベントに登壇した企業の中から、エア・ウォーターの乘附 海織さんに感想を伺いました。
乘附さん:自社でのグループ横断の連携課題をPALETTEのコミュニティマネージャー・鎌北さんへ相談したことが、MIRAI LAB PALETTE登壇のきっかけでした。 登壇では、医療用ガスシェアNo.1のエア・ウォーターが医療分野で取り組む新製品の価値や、産官学での社会実装の可能性を発信。これにより大学教授・自治体・企業から多方面で声を掛けていただき、想定を超える共創機会が創出されました。 結果として、部として掲げていた横ぐし連携のミッションに対し、確かな成果を残すことができ、大きな手応えを得ています。 横ぐし連携に課題を感じている方こそ、MIRAI LAB PALETTEは組織の壁を越える突破口になります。ぜひイベントに参加し、新しい出会いと共創の可能性を体感してください。今後も本拠点を活用し、さらなる情報収集と発信を通じて連携の輪を広げていきたいと考えています。
多様性が生む化学反応、PALETTEならではの交流の場

業界も事業フェーズも異なるプロジェクトが一堂に会した今回のイベント。
登壇後のネットワーキングタイムでは、参加者同士が活発に意見交換を行い、新たな協業の種が生まれる場面も見られました。
大手企業に所属する新規事業担当者、スタートアップ経営者、投資家など、多様なバックグラウンドを持つ人々が集まるPALETTEならではの化学反応が起きた一夜となりました。
同様のイベントは今後も定期的に開催予定です。業界を超えた交流と協業を通じて、次世代のイノベーションが生まれる場として、PALETTEは進化を続けています。


