循環型社会をギュッと体感──オープンな対話で異業種とつながる「サーキュラーコミュニティカードゲーム」体験会
- MIRAI LAB PALETTE 運営事務局

- 11 時間前
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地球規模の気候変動や国際社会の複雑化により、資源と経済活動の関係はますます密接になっています。従来の大量生産・大量消費の社会から、リサイクルの推進、そして資源循環を前提とした「サーキュラーエコノミー」への移行が求められていますが、その全体像を理解することは容易ではありません。
こうした資源循環やサステナビリティに関心を持つ個人や企業、自治体職員が集い、カードゲームを通して理解を深める機会として、MIRAI LAB PALETTE(以下、PALETTE)でイベントが開催されました。題材となったのは、循環型社会の実現に向けた共創を体験できる「サーキュラーコミュニティカードゲーム」。現実さながらの社会課題やパートナーシップの構築を、遊びながら体験できるワークショップとして活用されています。
サーキュラーエコノミーに関心を持つ参加者が、肩書きや業種を超えて協力し合い、循環型社会のあり方を一緒に考えた本イベント。PALETTEらしいにぎわいと、垣根を越えた共創が芽生える空気に包まれた当日の様子をレポートします。
カードゲームでサーキュラーエコノミーを学ぶ
2025年10月31日夜、PALETTEで開催されたイベントには、大企業・行政・スタートアップなど、多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まりました。今回のワークショップ「サーキュラーコミュニティカードゲーム」のファシリテーターを務めたのは、一般社団法人 社会デザイン・ビジネスラボ(SDBL)事務局長であり、株式会社「ごみの学校」認定サーキュラーリーダーの三尾幸司さんです。

「これからプレイしていただくのは、サーキュラーエコノミーをカードゲームを通して体験できるプログラムです。『ごみの学校』が開発したもので、私は認定ファシリテーターとして、学校や企業などさまざまな場で実施してきました。また、社会デザイン・ビジネスラボでは、社会課題に関心のある個人や企業を巻き込み、事業創造とコミュニティづくりを両立させる活動を行っています。今回も、この場から新しいつながりが生まれることを期待しています」(三尾さん)
この日は約25名のPALETTE会員が参加。初対面同士の人も多いなか、三尾さんの挨拶とアイスブレイクをきっかけに、和やかな雰囲気の中でゲームがスタートしました。

「サーキュラーコミュニティカードゲーム」の参加者には、「プラスチック製造」「廃棄物処理」「行政(まちづくり)」など、さまざまな業種を模した役割が与えられ、それぞれの目標達成を目指してゲームを進めていきます。具体的にできるアクションは、各プレイヤーに配られる「スキルカード」「課題カード」「お金」を組み合わせ、事業創造を通じて社会課題の解決を図ること。
たとえば「プラスチック製品の環境負荷」という課題に「地域ネットワーク」というスキルを組み合わせ、必要な資金と合わせて「事業化審査所」に提出すれば、「修理しやすい構造や素材に改良する」という事業創造に成功。作り上げた事業ごとに、新たな収益やスキルをもらえたり、地域全体の「社会」「経済」「資源」というパラメーターが変化したりします。他チームとの情報交換はもちろん、「課題カード」や「お金」の貸し借りも重要なポイントです。


ターンの終了時には、それまでに創出した事業の成果に応じて、各チームに資金が配分されます。早い段階で資金が尽きてしまうチームもあれば、次々と事業を展開して収益を増やしていくチームもあり、早期にエコシステムを築いたチームが有利に進むという現実社会に近い構造も感じられました。
多くの事業を生み出すことでリターンを得られますが、課題とスキルの組み合わせが成功するかどうかは、提案してみるまで分かりません。さらに、新規事業が新たな「課題」を生むこともあり、一つのビジネスですべての問題が解決するわけではない、リアルなエッセンスが散りばめられていました。


ゲームの途中では「プラスチック規制の強化」や「サステナブルツーリズムの高まり」などのイベントも発生。各チームの業績や地域全体の状況に応じてボーナスやペナルティが与えられ、目まぐるしく変化する社会情勢がゲームの展開に影響を与えます。
プレイ中には「補助金を申請したい方いませんか?」「太陽光パネルを整備できる方、協力お願いします!」「どうすれば事業をつくれるんだろう?」といった声が飛び交い、テーブルのあちこちで活発なやり取りが生まれていました。初対面同士のメンバーでも自然と協力し合い、循環する社会のかたちを描いていく。まさにPALETTEらしい共創の空間が広がっていました。
オープンな対話が導いた、PALETTEならではの好成績

慌ただしくも活気に満ちたプレイが続き、ゲームはあっという間に終盤へ。最終結果として、12チーム中11チームがクリア条件を達成し、地域全体の「社会・経済・資源」メーターも高スコアを記録しました。ファシリテーターの三尾さんによれば、他会場では地域メーターが上がりきらなかったり、資金不足に陥ったりするチームも多く、これほど高い達成率は珍しいそうです。
「学生がプレイすると動きがとても早いのですが、ある企業では慎重に進めるあまりカードを見せずに展開が鈍くなるなど、参加者の価値観がそのまま結果につながります。今回は他チームのゴールを意識して、協力し合う動きが活発でしたね。地域全体のメーターを上げるために情報を共有したり、『自分のゴールはこれ』とオープンに話したりする姿が印象に残りました。
立場や目的が異なるからこそ、お互いの情報をオープンにして協力し合うことで、それぞれにメリットが生まれ、最終的には『地域をよくしていく』という思考にシフトしていきました。これはある意味、現実社会にも通じる動き方だと思います」(三尾さん)

こうした現実社会にも通じる学びを、参加者はどのように感じたのでしょうか? プレイを終えた皆さんに話を聞いてみました。
「とても楽しく、あっという間でした! 事業創造の組み合わせが思い通りにいかないこともあり、異なる立場のプレイヤーと協力する大切さを実感しました。余裕のあるチームが他を助ける動きも生まれ、現実社会でも同じような関係性を築きながら、お互いの強みを活かせればと思えましたね。
初めてお会いする方も多かったのですが、ゲームを通じて自然と距離が縮まりました。サーキュラーエコノミーに関心を持つ者同士、普段は接することのない業界の方とも意見を交わし、新しい考え方に触れられたので嬉しかったです」(住友商事からの参加者)

「普段は地方自治体の市役所で、オープンイノベーションの推進や新規事業の協業を担当しています。首都圏の企業や新しい技術を地元の課題にどう結びつけるかを常に考えているのですが、今回のゲームはまさにそのプロセスを疑似体験しているようでした。行政として、地域の課題やニーズを拾いきれないと、企業との連携もうまく進みません。そうした現実の難しさが再現されていて、とてもリアルに感じました。
今回は『物流業』の役職で目標を達成できたのですが、成功の鍵はコミュニケーションだったと思います。自分だけで解決しようとせず、他のプレイヤーと相談し合うことで新しい視点が生まれ、課題を乗り越えることができました。現実社会でも同じように、立場を超えて協力することの大切さを改めて実感しました」(自治体職員)

「以前、別の場所でもプレイしたのですが、PALETTEではコラボレーションの幅がさらに広がっていました。レベニューシェアのように成果を分け合う形や、スキルを提供して後から報酬を受け取るなど、クリエイティブで柔軟な連携が生まれていたのが印象的でした。
私自身もシェアリングサービスの事業会社に所属しており、サーキュラーエコノミーの考え方には共感する部分が多くあります。改めて感じたのは、業界や立場の違いを越えて『いかにオープンに話せるか』が鍵だということ。ゲームを振り返りながら『こういう場がもっと増えるといいよね』と話していたのですが、今日のPALETTEはまさにそのようなオープンな対話と連携が体現された場なのだと感じました」(事業会社社員)
対話が生まれる「場」としてのPALETTE
サーキュラーボードゲームのプレイを通じて、参加者は普段とは異なる立場や視点を体験し、協働や共創の大切さを改めて実感していたようです。日常の業務では出会えない気づきやつながりは、循環型社会の実現に向けたヒントであると同時に、PALETTEという空間の価値そのものも象徴していました。

「ゲームの攻略で大切なのは、自分たちの中だけで完結させず、それぞれのプレイヤーが持つスキルを掛け合わせながら事業をつくることでした。現実のサーキュラーエコノミーにおいても、課題への理解が十分でなかったり、自分たちだけでは限界があったりするからこそ、柔軟に協働していく姿勢が重要です。
たとえば、熊本県の黒川温泉では旅館がコンポストプロジェクトを進め、生ごみから生まれた堆肥を農家に提供し、そこで育った野菜を旅館で提供しています。こうした地域循環の取り組みは、一つの業態だけの利益を追求するのではなく、地域全体の価値を高め、共創を通じてブランドを育てていく発想から生まれています。
サーキュラーエコノミーの実現には、既存の枠を越えて思考を変えることが欠かせません。今回のような体験をきっかけに、新しい考え方にチャレンジしてもらえたらうれしいです」(三尾さん)

PALETTEコミュニティマネージャーの鎌北雛乃は、社会デザイン・ビジネスラボのフェローとして他施設でこのゲームに参加した経験から、その楽しさをPALETTEでも共有したいと今回のイベントを企画しました。そして、想像以上の盛り上がりに、大きな手応えを感じています。
「同じゲームを体験すると、童心に戻ったような感覚で、あっという間に仲良くなれるんです。基本的には、『初めまして、一緒に新規事業をやりましょう』とはならないと思っています。名刺交換だけの表面的な出会い方よりも、まずは共通の体験を通じて、相互理解や信頼関係を築くことが大切だと思います。そこから自然に相談や雑談が生まれ、お互いのリソースを共有し合ったり、新たなコラボレーションを考えたりする関係へとつながっていくはず。このカードゲームは、まさにそのきっかけをつくる実践になっていました。いろんな人がぎゅっと集まり、交流の密度が高まる雰囲気も、PALETTEらしさをよく表していたと思います」(鎌北)
体験型のゲームとオープンなコミュニケーションを通じて、共創の重要性が深く掘り下げられた今回のイベント。次回の開催も予定されているので、機会があればぜひ、この温かな話に加わってみてください。


