top of page

日本各地の"大学発技術シーズ"がPALETTEに集う! リバースピッチ&技術ショーケース イベントレポート

ree

2025年11月18日、MIRAI LAB PALETTEにて「日本各地の"大学発技術シーズ"がPALETTEに集う! リバースピッチ&技術ショーケース」が開催されました。


筑波大学、東京科学大学、東北大学、早稲田大学の4大学から、計6プロジェクトの研究者や大学発スタートアップ担当者が一堂に集結。前半のリバースピッチセッションでは、各プロジェクトが企業に向けて技術の魅力と事業化の可能性を直接アピールし、後半の技術ショーケースでは実際の技術やプロトタイプに触れながら、具体的な連携検討を行う場となりました。


当日のピッチも含めた当日の内容をレポートします。


リバースピッチセッション - 大学発技術シーズの競演


筑波大学:光沢物・透明物の高速外観検査を実現する「SpecularInspect」


ree

製造業における外観検査の現場では、多くが人の目による検査に依存しています。特に光沢物や透明物の検査には高度な熟練技術が必要で、人材不足や検査の属人化が深刻な課題となっています。筑波大学が開発した「SpecularInspect」は、イベントカメラと変調光源を組み合わせた外観検査システムで、これらの課題に対するソリューションを提供します。


この技術の特徴は、傷や異物が発生する際の輝度変化に着目した点にあります。イベントカメラは輝度変化の検出に特化しており、変調光源と組み合わせることで効率的な外観検査が可能です。工学的な符号化と計算機処理が協業することで、データ取得段階で自然に傷を検出でき、Raspberry Pi 4程度のスペックのコンピュータでも動作します。


ステンレス板、黒いアクリル、透明なフィルムやレンズなど、従来のAI画像認識では対応が難しかった素材に対応可能で、時速20キロ程度で動く対象でも一眼レフカメラ相当の検出精度を実現します。現在は筑波大学GAPファンドに採択され、自動車部品の検査から事業化を開始し、将来的には半導体や医薬品容器、レンズ検査への展開を目指しています。


ヴィジライズ(筑波大学発):睡眠不足を検知する新たなドライバーモニタリング装置


ree

2024年8月に筑波大学発スタートアップとして創業したヴィジライズは、安全運転を捉える新たなモニタリング装置を開発しています。漫然運転は死亡事故原因の第1位を10年以上継続しており、死亡事故全体の14〜18%を占めています。年間の経済損失は3750億円、保険支払額は約30億円に上るこの課題に、同社は革新的なアプローチで挑んでいます。


この技術の核心は、車内カメラで撮影した顔画像をエッジデバイスで解析し、目の情報だけで反応時間を推定する点にあります。反応時間は睡眠不足に対して非常に鋭敏に反応しますが、運転中に測定することは困難でした。従来のドライバーモニタリング技術で最も科学的なバリデーションが進んでいるPERCLOS(1分間の閉眼時間比率)と比較しても、同社の技術は睡眠不足への感度が高く、4時間睡眠のような軽度の睡眠不足状態でも検知できます。


ビジネスモデルは、トラック・バス・タクシー事業者向けにエッジデバイスを提供し、反応速度の推定値をクラウドで運行管理者がリアルタイムでモニタリングできる仕組みです。現在、デバイス価格は8万円(月額使用料500円)ですが、国土交通省の疲労計測装置に認定されれば半額の4万円で提供可能となります。保険会社との連携による保険料低減モデルも検討中で、クラウドAPIサービスとしてスリープテック企業向けにも展開しています。


東京科学大学:誰でも直感的に操縦できるコントローラー


ree

ドローンやロボットの多様化により、操作が複雑になる一方で、熟練したオペレーターの人材不足が深刻化しています。2030年には労働者人口が労働需要に対して大幅に不足し、賃金も上昇すると予測される中、東京科学大学が開発した直感的に操縦できるコントローラーは、この課題に対する解決策を提示します。


従来のショベルカーの操作では、バケットを動かすためにレバーを左右や上下に倒す必要があり、初心者には困難でした。この新しいコントローラーは、人間が理解しやすい直交座標系を採用し、右手をバケットの動きに、左手をアームの動きに設定することで、直感的な操縦を実現します。実験では、初心者の作業成功率が約4倍に向上し、作業者の負荷と達成時間がそれぞれ約半分になるという顕著な効果が確認されています。


ハードウェアとソフトウェアの両面から制御を最適化しており、入力量に応じた抵抗感のフィードバックや、複数入力時の干渉整理、利き手と非利き手の左右差補正などを実装しています。さらにAIを活用した半自動支援機能も開発中で、画像認識によりボルトの姿勢制御と位置調整を支援します。日本国内だけでも手動・半自動での稼働時間は約2億時間と推計され、今後ドローンやロボットの増加に伴い、市場はさらに拡大すると期待されています。2028年度中の創業を目標に、現在アプリケーション開発を進めるパートナーを募集しています。


TouchStar(東北大学):スマートフォンで感動レベルの触覚を共有する技術


ree

「映像にはYouTube、音楽にはSpotifyとそれぞれ対応するプラットフォームがあるが、触覚のプラットフォームは存在するだろうか」—— 2025年10月20日に東北大学発ベンチャーとして創業したTouchStarは、この問いに挑戦します。エンターテインメント、VR、技能伝承といった領域で、触覚によるソリューションを提供していきます。


従来のスマートフォンのバイブレーターは、100〜200Hz程度の限られた周波数でしか触覚を表現できませんでした。しかし実際の触覚の周波数帯域は非常に広く、この制約が触覚コンテンツの普及を妨げていました。TouchStarの技術は、東北大学の特許技術により、人間の体感量を定量的に分析・抽出し、新しい波形を生成することで、100Hz以下や200Hz以上の高周波域もスマートフォンで再現可能にします。元の波形とデバイス向けに出力した新しい波形は体感として一致するため、汎用デバイスでもリアルな触覚が実現できます。


この技術は国際学会で受賞し、日本、米国、中国等で特許を取得しています。10月のCEATEC展示会ではネクストジェネレーション部門を受賞し、日経新聞にも掲載されました。2025年は触覚コンテンツの配信プラットフォーム構築、2027年には触覚の定量化技術を活用した製品開発支援へと事業を拡大する計画です。スマートフォン、Meta Quest、Nintendo Switch、映画館の座席、自動車のタッチパネル、遠隔操作ロボットなど、幅広い領域への展開を目指しています。


東北大学:湿潤地域でも低コストでCO2回収を実現する疎水性膜技術


ree

脱炭素が進展すると、空気中からCO2を回収するDAC(Direct Air Capture)技術の重要性が高まります。しかし空気中のCO2濃度は約400ppmと非常に低く、さらに水分がCO2の50倍から200倍も含まれているため、この水分除去に高額なコストがかかることが課題でした。東北大学が開発した疎水性膜技術「HumiFlect」は、湿潤地域でも低コストでDAC を実現する画期的なソリューションです。


HumiFlectは、空気中からCO2は透過させるが水は透過させない膜で、ポリマー製の多孔性支持体にイオン液体を含浸させることで作られます。従来のDAC装置では、水分を含んだガスを直接装置に投入するため、水分除去に大きなエネルギーとコストがかかっていました。HumiFlectモジュールをDAC装置の前段階に設置することで、水分を事前に90%除去でき、DAC全体のコストを70%以上削減できると試算されています。


ビジネスモデルは、装置の製造を外部に委託し、CO2回収量に応じた従量課金制を採用します。ターゲットは、DAC装置を開発中のエンジニアリング会社や海外スタートアップで、アメリカのDAC企業へのヒアリングでは、砂漠地域の設備を日本に持ち込むと回収量が約半分に落ち込むという課題が確認されており、水分除去の需要は確実に存在します。さらに、化学メーカーや廃棄物焼却施設など、CO2を原料として活用したい企業向けにも展開予定です。2027年の創業を目指し、1日1トンのCO2回収を目標に開発を進めており、シンガポールや東南アジアでの海外展開も視野に入れています。


Genics(早稲田大学):世界初、60秒で歯磨きができるロボット


ree

早稲田大学でロボット工学を専攻していた研究者が、「人とロボットの共存」というビジョンのもと、誰も実現していなかった分野に挑戦しました。Genicsが開発した世界初の歯磨きロボットは、人々の生活を支援し、健康を維持するという目標のもと、最短60秒で歯磨きを完了させる革新的な製品です。


独自開発のブラシがモーターで同時に動き、上下左右と歯並びに沿って磨き上げます。全ての歯を同時に磨くという従来にない概念により、短時間で効率的に内側と外側を同時に清掃できます。2024年10月から本格販売を開始し、子供から高齢者まで一般家庭や福祉施設など、すでに200台以上が活用されています。全ての製品は3Dプリンターで手作りされており、ハードウェアスタートアップとして独自の製造体制を構築しています。

新潟大学との共同研究では、歯周病のリスクが低いとされる基準を達成し、手磨きが下手な人よりも綺麗に磨けるというデータも取得しています。近年、歯周病が心臓病や認知症のリスクを高めることが明らかになり、口腔ケアの重要性が増しています。特に認知症予防においては、口腔に課題がある人は認知症リスクが最大20%増加するというデータもあり、毎日しっかりと噛んで飲み込み、口を動かすことが重要です。


市場規模は日本だけでも約8400万人(人口の7割)と推定され、アジア、ヨーロッパ、アメリカへの海外展開も視野に入れています。電動歯ブラシと同等以下の価格で提供できるフェーズに達しており、個人のスキルに依存しない最適な歯磨きを実現します。12月からは小型化した新製品をクラウドファンディングで予約を受け付けています。


ピッチイベント終了後に、登壇した栄田源さん(Genics 代表取締役)にお話を伺いました。


栄田さん「以前にHAX Tokyoで事業の相談をしていた縁で、MIRAI LAB PALETTEをご紹介頂き、今回のピッチイベントに登壇する機会が得られました。イベントに来られた多くの方々がg.eNに強い関心を持って頂いたことが嬉しかったと同時に、さまざまな業界・領域の方々と接する機会に恵まれ、改めてPALETTEコミュニティの質の高さと熱量を実感しました。クラウドファンディングに向けて大きな励みになったので、是非今後もコラボレーションの機会を頂ければ幸いです。」

大学の知と企業の実行力が出会う場


ree
ree

ピッチセッション終了後、会場は技術展示会へと移行しました。各プロジェクトのブースには実機やプロトタイプが展示され、参加者は実際に技術に触れながら、より詳細な議論を行いました。


今回のイベントには、研究開発フェーズから事業化直前まで、多様な段階のプロジェクトが集まりました。製造業、モビリティ、エンターテインメント、環境、ヘルスケアと、業界も多岐にわたります。MIRAI LAB PALETTEならではの「多様なフェーズ・多様なバックグラウンドの人々が出会う場」という特徴が、大学発技術シーズと企業の実行力を結びつける絶好の機会を創出しました。


最先端の研究成果を実用化・事業化へと橋渡しすることは、イノベーション創出において極めて重要な要素です。研究者が自ら企業に向けて技術の魅力を直接アピールし、企業側も具体的な連携の可能性を探ることができるリバースピッチという形式は、双方にとって貴重な機会となりました。


MIRAI LAB PALETTEは今後も、大学の知と企業の実行力が出会い、新たな価値を生み出す場として、こうしたイベントを継続的に開催していきます。次世代の技術シーズが社会実装へと進化していく瞬間に立ち会える場として、引き続き多様なコミュニティの結節点としての役割を果たしてまいります。

CATEGORY

ARCHIVE

TAG

〒100-0004
東京都千代田区大手町1-6-1
大手町ビル 2階

open : 9:30 - 19:00

close : sat, sun, and holidays

FOLLOW US

  • MIRAI LAB PALETTEのFacebookページ

© 2018-2025 SUMITOMO CORPORATION.

bottom of page