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正解のない探究が心の解放を生み、人との関係性を磨くーー山田翔太さんによる人気イベント「みたて茶会」の真価

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「心を落ち着けて集中する時間が最近なかった」「日々業務に取り組んでいると自然と速足気味になる」——こうした声は、多くの現代ビジネスパーソンに共通する悩みかもしれません。そんな中、MIRAI LAB PALETTE(以下、PALETTE)で継続開催されている「みたて茶会」が、会員間で高い評価を得ています。


2025年8月19日に行われた4回目の茶会も大好評のうちに終了。講師を務める陶芸家で茶人の山田翔太さんによると、参加体験をきっかけに複数の大手企業からコラボレーションの話が舞い込んでいるといいます。


従来の茶道とは一線を画すこのワークショップは、参加したビジネスパーソンに「正解のない美しさ」を探求させ、予想以上の深い気づきをもたらしました。



正解のない「みたて」の世界


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「今日は茶道を学ぶ時間ではありません。『あなたにとっての美しさとは何か』を見つけることが主な目的です」

山田さんのこの言葉で始まった茶会は、参加者にとって予想を超える深い内省の時間となりました。


「普段、仕事をしている中で『あなたにとって美しさとは何ですか』って聞かれることって少ないと思うんですよね。『正解は何ですか』とか聞かれるかもしれませんが、誰かの正解ではなくて、自分の正解に触れていただくーー今日はそんな時間にしていきたいと思います」(山田さん、以下同じ)


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最初に参加者が手にしたのは、陶芸家としての山田さん自らが制作した茶盌(ちゃわん)。参加者それぞれが直感で選んだ一つの茶盌を、8分間もの時間をかけてじっくりと観察するのです。まず目を閉じて手のひらで重さや質感を感じ取り、その後で茶盌の内側を「鳥の目」「虫の目」の視点で詳細に見つめていきます。


鑑賞後のセッションでは、「目で見えてわかってた気になってたのに、目をつぶって持つと、全く違うテクスチャーや重さを感じました」といった声や「鳥の目で見たときは山と雲に見えて、近づけて見たら枯葉に見えた。見え方の違いが面白かった」という感想も聞かれました。


山田さんによると、茶道の世界では通常、茶盌を鑑賞する時間は非常に短いことが多いとのこと。しかし本当に「見る」ということは、これほどの時間をかけて初めて可能になるのです。「8分間という時間をかけることで、皆さんと茶盌との距離が縮まり、愛着すら感じるようになる」と山田さんは意図を説明します。


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ビジネスパーソンの戦う心に訴える「新しい茶会」


山田さんが「みたて茶会」を企業研修やビジネスの場で行う理由には、深い意図があります。「みたては正解のない世界です。実はM&A案件など重要な経営会議の前に茶会を開くケースがあるんです」

その効果について山田さんは語ります。


「これからボコボコにしようとしている相手の美意識を先に知ってしまったら、実は相手のことを攻撃できなくなっちゃう。誰しも相手のことを肩書きでしか見てないんですよ。でもみたて茶会を通じて相手の美意識に触れ、お互いの心に触れあう。その後でその相手をボコボコにできますか?」


この日の参加者たちも、お互いのみたてを聞く中で、批判的な感情を抱くことはほとんどありません。ある参加者のみたてに対して「そうは見えない」と否定する人はいないのです。


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「でも会社の中では、お互いの意見が違ったときに『いや、そうじゃない、それは正解じゃない』と言ってしまうことがたくさんあるんです」と山田さんは指摘します。


参加者の一人は「仕事でも、すごく悩みながら毎日霧の中を突き進んでるような気がします。(選んだ茶盌を指して)この黒い中の白い筋のようなデザインが、まさに自分自身を表してるなと思って直感的に選びました」と自身の心境を重ね合わせて語りました。



深い内省から、他者との新しい関係を見出す90分


茶盌の観察を終えた参加者たちは、山田さんが丁寧に点てた抹茶をいただきました。鹿児島県霧島の有機抹茶を使用したその味わいは、多くの参加者にとって新鮮な体験となりました。


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ワークショップ終了後のアンケートからは、参加者の心に深く刻まれた体験の価値が浮かび上がってきます。多くの方が共通して感じたのは、時間をかけて物事を見つめることの重要性でした。「答えを持たずに物事を多方面から時間をかけて見つめる大切さに改めて気づかされた」「目を閉じるからこそ見えてくるもの、長く見ているからこそ感じられるものがある」といった声が寄せられています。


また、日常では得られない心の静寂への渇望も表れています。「心を落ち着けて集中する時間が最近なかった」「日々業務に取り組んでいると自然と速足気味になるので、定期的に立ちどまる時間を設けたい」という感想からは、現代のビジネスパーソンが抱える共通の課題が見えてきます。


さらに特徴的だったのは、他者との新しい関係性の発見です。「その時間を共有することで心のつながりもできる」「お互いみたてあうことで、真のお互いを知れる」といった言葉からは、みたてという行為が単なる個人的な体験を超えて、人と人とを深いレベルで結びつける力を持つことが分かります。


山田さんは最後に参加者たちに「明珠在掌(みょうじゅたなごころにあり)」という言葉を贈りました。「手のひらの中に一番大事なものがある。どうしても社会にいると、こうやってずっと外を向いている状態でいることが多いと思います。でも一瞬でも手のひらを見て、じっくり自分の美しさを感じるということを、ぜひやっていただく時間を増やしてください」


この特別な体験がどのように生まれ、今後どのような展開を見せるのか。山田さんとPALETTEコミュニティマネージャーの鎌北雛乃(住友商事)にインタビューしました。



みたて茶会誕生の背景


——みたて茶会を始められた経緯を教えてください。


山田さん: 通常の茶道では、茶盌を鑑賞する時間はあるのですが、最初に物の説明があってからお茶を飲み、最後に茶盌を見るという流れです。物理的になかなか見る時間をゆっくり取れていないということに気がつきました。陶芸家でもある私としては、ものをもっとじっくり見てほしいという思いから、最初に茶盌を見る時間を設けた茶会の構想にたどり着いたのです。


一人一人が物をしっかり見られていないということは、誰かの解説や固定概念によって物を見ているということです。一人一人の美意識をもっと解放させ、シンプルに「あなたには何が見えますか」と問いかけると、誰でも答えが出てきます。人の心をもっと解放したいという思いから、この茶会の構想に至りました。


——実際に始められて、参加者の反応はいかがでしたか?


山田さん: 一人一人が本当に楽しみながら参加されています。茶道は硬い、少し怖いものだと思っていたという方が多くいらっしゃるのですが、それに比べて心が解放された感覚や、「自分の美しさや感じていることを話すのはいつぶりだろう」といった気持ちで、皆さんわくわくされているのを感じます。これは始めたときから今に至るまで変わらない参加者の反応です。



PALETTEとの出会いと発展


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鎌北: 4年前頃に、住友商事にネットワークが広い社員がいまして、さまざまな活動をしている中で山田さんと出会い、「PALETTEに来ていただいたら、良いコラボレーションができるのではないか」ということで、ご紹介を受けました。


山田さん: 私自身、一般の方向けにみたて茶会をやってはいましたが、一番伝えたいと思っていたのがPALETTEにいらっしゃるようなビジネスパーソンの方で、中でも「新しいことにチャレンジしたい、色々な人と繋がりたい」という意志の強い方々でした。


どちらかというと感性で生きている方よりも、頭で生きている方に伝えたいという思いがありました。ビジネスをしっかりやりながらも、普段は正解という枠の中に捉われていて、でもそうじゃない一歩先に行きたい、自分を解放させたいという方にこそ、みたて茶会を体験いただきたかったのです。


私自身、会社員の方とのプライベートなコネクションがほとんどなく、出会うタッチポイントが少ないのが実情でした。ですから、新規事業をやっている、会社の中心で活躍されている方々との出会いは非常に貴重です。

——PALETTEでの開催の経緯を教えてください。


鎌北: 最初はコロナ禍での実施だったので、皆でお茶を一緒に飲むという体験ができませんでした。そこで苦肉の策として、山田さんが制作された茶盌を皆で見る体験と、山田さんからみたてについてのレクチャーをしていただく形にしました。実際に皆の前でお茶を立てていただきましたが、そのお茶は山田さんが飲むというパフォーマンス的な内容になってしまいました。


イベントの満足度は非常に高かったのですが、やはり山田さんが立てたお茶を皆で飲みたいという声があり、コロナが落ち着いたタイミングで山田さんから「今度は皆でお茶を飲みましょう」とお声がけいただき、通常3時間かけて行うみたて茶会を短くした「PALETTE茶会」という形でお願いしました。一度やってみると大変好評で、皆さんでお茶を飲むというスタイルに移ってからは3回実施しています。



企業コラボレーションの広がり


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——PALETTEの会員の多くは大企業など、大きな組織に所属されている方々です。茶会に参加した方々から、後日みたて茶会実施のオファーが来るそうですね。


山田さん:「これを導入したら会社が良くなると思います。チームの中で軋轢があったとしても、この思想を皆が知っていたら、もっと柔らかく事業が進むのではないか」と思いから、ご相談いただくケースがあります。みたて茶会を体験をした人が伝道師として、自社に広めてくれているのです。


恐らく私が企業に自分で提案しても、みたて茶会の価値は簡単には伝わらないのですが、実際に体験から入ることで価値が伝わり、「自分の会社の社員に受けさせたい」という熱量で物事が突き進んでいるのです。こうした動きはPALETTEという優良なコミュニティの中で、みたて茶会を実施できたからこそだと思います。


——PALETTEの会員について、山田さんはどう感じていますか


山田さん: 私はさまざまな企業やコワーキングスペースに訪問していますが、これほど感度が高くて熱量を持つ方が多く集まる場所は稀です。



「みたて茶会」から次のステップへ


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——今後、PALETTEを通じて実現されていきたいことを教えてください。


山田さん: 私のやりたいことは意外とシンプルで、一人でも多くの方にこの"みたて"の思想を伝えるということだけです。死ぬまでこれを淡々と続けていくつもりです。PALETTEの中でも会員の入れ替わりや新しい方の参加があると思いますので、そういった中で新しい人たちにもみたての輪を広げていければと思います。


——みたて茶会の次のステップについてはいかがですか?


山田さん: 現在、みたて茶会の第二部として「たてる茶会」を行っています。茶盌のみたて、ものを見るということをクリアした次に、実際に自分でお茶を点ててみて日本の文化の継承をしてもらうことを目的としています。


基本的に、みたて茶会を体験した方が次のたてる茶会に進むという順番になっており、前回PALETTEに参加していただいた方々にも参加していただきたいと考えています。これは日本の文化の輸出だと思っており、一人一人に自分で伝える力、自分で立てる力をお伝えしていきたいと考えています。


鎌北: PALETTEでも今後、メンバー同士がより深い関係性を築けるような場を作っていきたいと考えています。

何かチャレンジしたいと思ったときに気軽に相談できるPALETTEメンバーや、一緒に何かをやりたいと思えるような関係性をPALETTEの中で生み出していきたいですね。今回の茶会はそういうきっかけの場として十分機能すると考えており、PALETTEメンバー同士が深い関係性を作れるような場作りを、山田さんとご一緒できたら嬉しく思います。



正解のない美しさを探求する「みたて茶会」は、単なる茶道体験を超えて、現代のビジネスパーソンが自分自身と向き合い、他者との新しい関係性を築く貴重な機会を提供しています。

PALETTEの質の高いコミュニティと山田さんの独自の手法が組み合わさることで生まれるこの特別な時間は、今後も多くの参加者の心に深い気づきをもたらし続けることでしょう。



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山田翔太


陶芸家 茶人

「みたて茶会」主宰

10代から独学で陶芸を始める。東京を拠点に作陶。

遠州流茶道で茶の湯を学び、茶盌を中心とした作品を制作し、日本の美意識である"みたて"を伝える。

また自然の中で五感をひらく絶景の野点茶会を開催。

フランスなど海外でも作品の個展や茶会をとおして日本文化を世界に伝える活動をしている。



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