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特許庁「I-OPEN PROJECT」 | コミュニティの相乗効果がもたらすイノベーションの連鎖

更新日:6月9日



特許庁が主体となって2021年より進めている「I-OPEN PROJECT」。知的財産を活用して社会課題の解決に挑む起業家や事業者、団体、個人を支援するこのプロジェクトは、コロナ禍を経てオンラインからリアルな場づくりへと移行する中で、MIRAI LAB PALETTEとの連携を深めてきました。


今回は、I-OPEN PROJECTを受託し運営するソニーデザインコンサルティング株式会社の 山内文子さんと、I-OPEN PROJECTに有識者として参画するMIRAI LAB PALETTEファウンダーの西野修一朗(住友商事)、同じくMIRAI LAB PALETTEコミュニティマネージャー鎌北雛乃に、両コミュニティの連携によって生まれた相乗効果や今後の展望についてインタビューしました。


I-OPEN PROJECTとは?デザインと知財の力で社会課題を解決する


——まずはI-OPEN PROJECTの概要と立ち上げの背景について教えてください。


山内さん:2018年頃から特許庁がデザイン経営を推進していますが、これは「デザイン経営宣言」が発出されたことがきっかけだと理解しています。その活動のひとつとして「I-OPEN PROJECT」が始まりました。社会課題解決に取り組んでいる方の中には、「知的財産権が自分の事業に関連がある、活用できる」と思っていない方もいらっしゃいます。でも、知的財産権を活用すれば、目指している社会課題解決をさらに加速することができる可能性があることということを知っていただくことが出発点だと考えています。


知的財産というと「競争優位性」や「独占」という印象が強い方も多いと思いますが、今は「競争」ではなく「共創」の時代です。だからこそ新たな知的財産の活用を知っていただきたくことが大切だと思います。想いを起点に社会課題解決を目指そうとしても、個人や自社だけ達成するのは難しいようなケースも多いと思います。そのような場合は、知的財産という形でその想いをまとめ、ブランディングにより共感を生む、ライセンスなどでパートナーを得て拡げるなどにより、ゴールに向けて加速できると考えています。

弊社は、デザイン経営推進に深く関わってきたこと、自社内でも知財とデザインを活用していることから、本事業に応札して受託させていただきました。昨年度で4年目となりました。

 


ソニーデザインコンサルティング リエゾンマネージャー 山内文子(やまのうち・ふみこ)さん
ソニーデザインコンサルティング リエゾンマネージャー 山内文子(やまのうち・ふみこ)さん

 

——西野さんはどのような経緯でI-OPEN PROJECTに関わるようになったのでしょうか?


西野:当社の関係者に、経済産業省が公表した「デザイン経営宣言」に深く関わり、ソニーさんとも懇意にしていた方がいました。PALETTEの責任者を担っていた当時、その観点から、ソニーさんをご紹介いただいたことから、ご縁が始まりました。


I-OPEN PROJECTが始まった当初からコロナ禍と重複してしまい、リアルな活動に移行しようとしていたタイミングで、PALETTEという「場」を持つ我々がお力添えできることもあるだろうということから、ご支援する流れになりました。



住友商事 産業横断連携・開発ユニット 西野 修一朗。MIRAI LAB PALETTEのファウンダーでもあり、現在は福島県浪江町の起業人材育成支援プロジェクト「ナミエシンカ」に携わる。※今回の取材は浪江町からオンラインで参加しています。
住友商事 産業横断連携・開発ユニット 西野 修一朗。MIRAI LAB PALETTEのファウンダーでもあり、現在は福島県浪江町の起業人材育成支援プロジェクト「ナミエシンカ」に携わる。※今回の取材は浪江町からオンラインで参加しています。

コロナ禍からリアルな場づくりへ—MIRAI LAB PALETTEとの出会い


——コロナ禍を経て、オンラインからリアルな場づくりに移行した経緯について教えてください。


山内:元々はリアルで開催したかったのですが、コロナ禍でできなかったというのが一点に尽きます。プロジェクトは令和3年度(2021年)から始まり、昨年度で4年目になるのですが、新型コロナ対応の規制が緩やかになっていくことに呼応して、すべてオンラインで開催していたイベントも複数回のうち1回は対面で実施などというように流れが変わっていきました。


関係者が一堂に会するI-OPENフォーラムなども本当は会場で実施したかったのですが、新型コロナの感染リスクを考慮せざるを得ず、オンラインでの開催や録画の公開となっていました。そういった流れの中で、特許庁様から対面もオプションとして検討可能、コミュニティ形成を促進するという主旨の方針が出た段階で、真っ先に西野さん、鎌北さんに相談しました。


鎌北:MIRAI LAB PALETTE(以下、PALETTE)としてもコロナの間はすごく厳しい時期でした。この場を持っているにも関わらず、不特定多数の人が来るような環境であるPALETTEは、本社基準よりも高いレベルの制限で運用していました。


メンバーの方にもシフト制を導入したり、飛沫防止パネルを設置したりといった対策をとっていましたが、それでも人を呼べない時期が続き、いろいろな悩みを抱えていました。規制が緩和されたときも、なかなかすぐには人が戻ってこない状況でした。どうしたら場が活性化するのか、どういう人を巻き込んでいったらいいのかと模索していた時期に、山内さんからI-OPEN PROJECTとの連携の話を頂きました。


PALETTEはテーマや領域を定めないコンセプトですが、新規事業に関わる方や、社会課題に興味を持っている方が多い。そういう意味でI-OPEN PROJECTのテーマや携わっている方々は、PALETTEに必要な方々だと感じました。そういった方々を巻き込むことで場に求心力が生まれ、また取り組みに共感するユニークな方々が増えていきました。



MIRAI LAB PALETTE コミュニティマネージャー 鎌北雛乃
MIRAI LAB PALETTE コミュニティマネージャー 鎌北雛乃

相互補完的な連携——カジュアルな場づくりの価値


——PALETTEでの連携はどのように進められたのでしょうか?


山内さん:まず西野さんにI-OPEN PROJECTの有識者委員会であるI-OPEN Round Table の「コミュニティ」をテーマとした会の有識者委員へのご就任をお願いし、専門家としてたくさんのご意見をいただきました。特許庁 I-OPENチームの皆様にPALETTEを訪問する機会を設け、西野さんや鎌北さんからどのように素晴らしいコミュニティを育ててきたのかをお話しいただきました。

また事業期間中お借りした会議室にはI-OPEN LODGEと名前を付けて、定期的にトークイベントやコミュニケーションの場を設けることもできました。フォーラムのような大きなイベントだけではなく、むしろ横のつながりを生む、気軽にコミュニケーションできる場をご提供いただいたのが大きかったですね。


——そういったカジュアルな環境はプロジェクトに対して、どのような価値をもたらしたのでしょうか?


山内さん:アジェンダを決めて、人選して設定するといったオフィシャルな会議形式のコミュニケーションはハードルが高くなりがちですが、気負うことなく話せる環境はとてもありがたいものだと思います。また、住友商事様がマネジメントされているコミュニティということで、安心して話ができるということも大きな要因のひとつだと感じています。PALETTEに行けば「自分の想いを誰かに伝えられる、協力者と会える、賛同してもらえるかもしれない」という期待感もあったと思います。


PALETTEの魅力は、企業が運営しているにもかかわらず、とてもニュートラルでポジティブな空気があることです。場の雰囲気、空間デザインも素晴らしく、受け入れてもらえるだろうかといった不安を払しょくしていただける感じがあります。加えて様々な地域からのアクセスも抜群です。I-OPEN PROJECTの関係者のみなさまは「ずっとここに出入りできたら」と仰っていました。

 


PALETTEで開催されたI-OPENのイベントの様子
PALETTEで開催されたI-OPENのイベントの様子

——相談に来られる方々にとっても、新しい体験だったのではないですか?


山内さん:そうですね。この場の環境とPALETTEに集う皆様の雰囲気、この2つが訪れやすさにつながっていたと思います足を踏み入れれば、心地よい空間があり、そこにいる誰もが歓迎してくれる。PALETTEのもつそういうハード面とソフト面が、プロジェクトに良い効果をもたらしていただいたと思います。


コミュニティ間の相乗効果—次のステージへの橋渡し


西野:こういった期間を決めて、毎年継続していくプロジェクトで大切にしなければいけないのが、アルムナイ(卒業生)ネットワークです。卒業生のネットワークをどう活性化させ、自走させていくか。ここにPALETTEができることがあると思っています。


プロジェクト期間終了後に、物理的に集まれる場は重要です。例えば、終了後にPALETTEメンバーとなり定期利用をしていた採択者がいたとします。メンバーになれば、コミュニティマネージャの鎌北が属性を理解した上で、さまざまなアシストをします。もちろん、PALETTEメンバー内でも採択者同士のネットワーク構築をサポートしてくれます。


そうして、利用頻度とネットワークの密度が高まっていけば、PALETTE内にI-OPENプロジェクトのコミュニティが可視化されます。さらに他のコミュニティとの連携が連鎖的に起こりますので、自然とアルムナイネットワークが強化されていくのです。


鎌北:具体的な事例の一つが「RingsCare(リングスケア)」という会社です。I-OPEN PROJECTに採択されて伴走支援を受けた後、PALETTEのコミュニティに入会していただきました。その後、西野が福島県浪江町で関わる起業家支援「ナミエシンカ」のアクセラレーションプログラムに採択されるという流れができました。

 


福島県浪江町のアクセラレーションプログラム「ナミエシンカ」
福島県浪江町のアクセラレーションプログラム「ナミエシンカ」

 鎌北:また、実証実験のサポートとして、PALETTEでの実証実験の場の提供や、メンバーを集めるお手伝い、他のコミュニティとの連携支援など、さまざまな形でサポートしています。


——山内さんからご覧になって、PALETTEならではの特徴はなんでしょうか?


山内さん:相談できる場があるというだけではなく、理解者として寄り添ってくださることが大きな違いだと思います。場の提供者からもう一歩踏み込んでいただいていると感じています。最近「自分ごと化」についてよく考えるのですが、PALETTEのみなさまに相談すると自分のことのように答えてくれるんです。「山内からの相談」ではなく、自分のアジェンダにして考えてくださるーーそこが大きな違いだと感じています。


西野:プロジェクトの中身によっては、外から見ると「何をやっているかわからない」と言われがちなケースもある中で、理解を超えて自分事にして見てくれる人がいるのはありがたいですね。鎌北のような「おせっかいお姉ちゃんがいる」というのは、PALETTEの強みだと思います。


今後の展望—自立自走するエコシステムの構築へ


——今後のビジョンについて教えてください。


山内さん:プロジェクトで蓄積してきたノウハウやラーニングコンテンツを活用して、I-OPENの関係者だけでなく、PALETTEの会員の皆様にも関心を持っていただいて、ご自身の事業に使っていただけるようなことができればと思っています。


また、弁理士の先生たちとの連携も考えています。アイディアを思いついたけれど誰に相談していいかわからない方も多いですよね。そういう方たちのための勉強会をPALETTEで開催して、皆さんに知財やデザインの知識や関心を持っていただく。そこから社会課題解決の事業に伴走するような動きが生まれてくるといいなと思います。


特許庁様がデザイン経営推進の一環で推進しておられますが、I-OPENで行っている伴走支援プログラムがいつか様々なところで当たり前のように行われているというのが理想の姿ではないかと思います。PALETTEのような場所は、そのロールモデルになるポテンシャルをお持ちだと思います。


西野:支援プログラムが数多ある中で、これほど採択者が多様なプログラムは他にないと感じるところが、I-OPENの強みです。しかし、多様な卒業生を次のステージに導くには、多様な選択肢や支援、機能が必要になります。卒業生は自身の状況に合わせて、それぞれの目的やターゲットを絞った場所を選んでいく必要があるのですが、PALETTEはいわば「多様性のコンビニエンスストア」のようなもので複数の場所を選んだり、ハシゴする必要がない。多様な選択肢を与えられるという機能をPALETTEが持っているのは、I-OPEN PROJECT側からするとすごくありがたいことです。

今後は東京だけでなく、全国展開と自走化が大きな目標になってくるでしょう。


鎌北:PALETTEのコンセプトは多様な分野のパートナーが垣根を越えてコラボレーションすることです。今後もI-OPEN PROJECTとの連携を深めつつ、OBOGや現役採択者とPALETTEメンバーが協働して新しいチャレンジができるような取り組みが進めば嬉しいです。そういうコラボレーションの姿をイメージしながら、これからも取り組みを進めていきたいと思います。


万博での展示も予定—I-OPEN PROJECTの次なるステージ


——大阪万博での企画が進んでいるそうですね


山内さん:今年の大阪・関西万博で特許庁様としての展示も10月上旬から予定されています。その中にI-OPENの事例紹介やステージでのイベントも企画されているようです。


——西野さんも関連するプロジェクトがあるとか?


西野:はい、浪江町の企画で「GURURI- Circular Sake Project」というものを進めています。万博の「循環」というテーマに合わせたサステナブルな価値創造を目指すプロジェクトで実はI-OPENの卒業生の方と協働しているんです。そうした観点から、I-OPENと浪江町のプロジェクトの連携という形でも紹介できればと思っています。


山内さん:実は万博のブレストもPALETTEでやっていました。リアルな場での対話があったからこそ生まれたアイデアも多いと思います。


「自分事化」が生む価値—単なる場所提供を超えた関係性

——最後に、これからの連携についての思いを教えてください。

山内さん:場の持つ雰囲気、対面での気軽なコミュニケーションを生む空気、いつでも自分ごと化して共に考えてくださるみなさまがいらっしゃる安心感や信頼感、PALETTEにはたくさんの魅力があふれています。この場を通して、社会課題解決を目指す多くの皆様が、ゴールに向けて活動を加速できることを願っております。

西野さん:それまでの生活空間や業務環境で顔を合わせることの無かった方々が、デザインの力と知財を使って、一緒に社会課題解決を目指していく仕組みーーこれこそがI-OPENの特徴です。私たちとしては、I-OPENに集まる方々が気軽に交流できる場をどう作るかが大きなチャレンジでした。さまざまな貸オフィスやプロジェクト紐付きの施設が多い中で、多様な属性の方々が自然体で一カ所に集まっているPALETTEは、I-OPENが発展していく過程で大きな力になると思います。このような相互補完的な関係が、今後のプロジェクトの全国展開や自走化の鍵になるのではないでしょうか。

鎌北さん:PALETTEのコンセプトは多様な分野のパートナーが垣根を越えてコラボレーションすることです。今後もI-OPEN PROJECTとの連携を深めつつ、現役採択者とPALETTEメンバーが協働して新しいチャレンジができるような取り組みが進めば嬉しいです。そういうコラボレーションの姿をイメージしながら、これからも取り組んでいきたいと思います。


MIRAI LAB PALETTEとI-OPEN PROJECTの連携は、単なる場所の提供を超えた「自分ごと化」の関係性を構築してきました。多様な人材が集まるプラットフォームと、明確な機能とビジョンを持つプロジェクトが連携することで生まれる相乗効果。これからも両者の共創から、新たなイノベーションの連鎖が生まれていくことでしょう。


(取材・文:越智岳人)


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